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夕食後、汗と埃を流して共に寝室に入ると、ジンイェンはエリオットに何度もキスをしながら夜着の隙間から手を差し入れた。
素肌にジンイェンの手が滑り、それに気付いたエリオットは慌てて制止した

「……ねぇ、今日はしてもいいよね?」
「い、いや……明日も仕事があるし、その……」
「えー、昨日もそんなこと言ってたじゃない」

恋人からのセックスの誘いにエリオットが難色を示すと、ジンイェンの唇が不満げに歪んだ。
それを見たエリオットは慌てて首を横に振る。

「あ、その、別にしたくないわけじゃないんだが……」
「じゃあいいでしょ。俺すげーしたい。いっぱい気持ちいーことしようよ」
「きみそう言って、僕が無事でいたためしがないんだが……」
「だってアンタが可愛いすぎて、つい」

久々に繋がり合ったあの日から、ジンイェンは箍が外れたかのようにエリオットを濃密に愛した。
嫌だと言えばジンイェンは行為を強引には進めたりはしないが、優しくすると言って快楽責めにしたり、あられもない言葉で欲しがるまで意地の悪いことをする。
恋人と触れ合うことを何度も拒みたくはないが、エリオットはそのことを思い出して辟易した。対してジンイェンの表情は締まりがない。

「僕はもう眠いし、きみだって疲れてるだろ」
「大丈夫、ちょっとだけだから。ね?」
「…………」

結局、断りきれずジンイェンに流されるままになってしまうのがエリオットの常だ。
そうしてやはり「ちょっとだけ」で済まないのも、いつものことだった。





宮廷へ出発する前日、業務終了後にエリオットはフェリクス立会いのもと炎の精霊王と交信した。
フェノーザ校の地下に魔術の儀式に使う広間があり、そこは演習場と同じくらいの広さで床や壁は大理石で出来ている。
地上の喧騒は一切響いて来ず、儀式に集中するのに相応しい場所である。

エリオットが魔法陣を展開し炎の精霊王を呼び出すと広間が熱気で満たされた。陽炎のような揺らめきと共に広間を埋め尽くすほどの大狼が徐々に姿を成す。
燃え盛る黒い炎を纏った狼は威厳に満ちていて、魔法使に畏怖の念を抱かせる崇高さを持っている。
エリオットから距離を取り、一連の動作を見ていたフェリクスは目を細めた。

(術の精度が上がってるね……エリオット君)

それは喜ぶべきことだった。しかし、同時に何故か胸騒ぎもした。エリオットの術から脆く崩れてしまいそうな危うさを感じ取る。
精霊王との交信は長く続いた。
エリオットは瞳を閉じてしきりに口を動かしている。声は出ていないが、『会話』をする癖で口が動いてしまうのだろう。
精霊との交信は本来は意識下で行われる。呪文を唱えるのは人としての癖と、周囲の人間に術の存在を知らしめる意味合いが強い。




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