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カッと全身が燃えるように熱くなる。
思わぬタイミングで予想外の話を切り出されて、あからさまな反応をしてしまった己を恥じ、返答も鈍った。

「あ、いえ、その……」
「だから、そのことを責めているわけじゃないと言っただろう。むしろ喜ばしいことだと思ってるんだ。きみは……奥方を亡くされてからずっと塞いでいたからね」
「……はい」
「おそらくその状態では雷の精霊王は感応しなかったと思う。だから僕はずっと精霊王との契約を引き止めていたんだ。でも今、きみに愛し守りたい人が出来たからこそ、精霊王も力を貸したんだろうね」

顔中かっかとして赤く染まっているエリオットを、宥めるようにフェリクスが諭す。
エリオットには思い当たることが多々あった。ジンイェンが傍にいると精霊王の力が増したような気がしていたのだ。
彼の身を案じ、守りたいと強く思った。逆に彼に庇護されている心地良さにも酔っていた。
そういうものが精霊王との絆を繋げたのだというなら、納得できる話ではあった。

「ただし、恋と同じく気まぐれな面を持っていてね。術が熟練するまではその力も不安定でかなり精神面に左右されるよ。だから行使の際は十二分に気をつけて欲しい」
「はい、わかりました」
「それで資格申請は?」
「そうですね……炎の精霊王とも交信しないとならないので、その後にしようかと」

むしろそちらの方が面倒だとエリオットは思った。
ジンイェンとのことで手一杯になり後回しにしていたことを、そろそろ本格的に片付けなければならない。不測の事態はいつやってくるか分からない、と身に沁みたところだからだ。
一連の話を聞き終えたフェリクスが鼓膜に響く大声を上げて笑う。

「ははは、魔法陣を使い回ししたんだったかな!やるねぇ!」
「何故あんな考えに至ったのか、自分でも疑問です……」
「いやいや、人間追い詰められたときこそ本質が出るというものだ。きみは勝負強く、そして逆境を切り抜ける底力が備わっていたということだね!」

子供っぽくきらきらと瞳を輝かせてフェリクスが手を叩く。
ああいった行動に出たのも、やはりジンイェンとの付き合いで心境の変化があったからなのだろう、とエリオットは照れ臭く思った。
ひとつ咳払いをして居住まいを正すと、フェリクスに丁寧に礼を述べた。

「話を聞いてくださってありがとうございました、教授」
「いいんだよ。それに、魔道師に昇格したら正教授になることも考えてはどうかな?チボル教授もご高齢で、そろそろ引退したいと仰っているよ」
「……そうですね」

そのことは以前から何度も打診はあった。しかし准教授と正教授とではその業務内容も責任の重さも全く異なる。
けれど昇格を機に、というのは良い切っ掛けかもしれなかった。

「まぁその前に宮廷魔法使に引き抜かれてしまうかもしれないね!」
「はは、ありえませんよ。少し話をしに行くだけですから」

エリオットが苦笑いを滲ませると、フェリクスは立ち上がってエリオットの傍らに移動した。
そして長年の友人のようにぽんぽんと背を叩く。

「相談事があったらまたいつでも来なさい。きみは、僕の生徒でもあるんだからね」
「……はい、教授」

エリオットとフェリクスとは学生時代から続く縁だった。
学生時分は苦手な教授としてあまり関わらないようにしていたが、准教授として世話になるようになってからその偉大さと懐深さに気付き、好むようになった人柄だ。
エリオットは瞳を伏せて少し微笑んだ。
まだまだフェリクスの前では学生のような未熟さが出てしまう、その滑稽さに。しかし悪い気分ではなかった。

フェリクスに再度礼を告げてから退室すると、廊下を歩いている途中でモーガンと鉢合わせた。

「業務お疲れ様です、モーガン准教授」
「なにやらお忙しそうですな、ヴィレノー准教授」

モーガンの口調はいつにも増して刺々しい。対抗戦の場でラルフを紹介しなかったことを根に持っているのだ。
しかしあの混乱のなかで紹介できるわけもないことも理解しているらしく、それが余計にジレンマとなって腹立たしいのだろう。
これで今度は宮廷に招待されたことがモーガンの耳に入った日には更に面倒な事態になると思い、エリオットは口を噤んだ。

「……いつも通りです」
「はん、いい気なものですな。まぁ、私ももうすぐ大地の精霊王と契約をする予定ですからな、忙しくてたまらないのですよ」
「それは、大変ですね」

やけに張り合ってくるモーガンを激励をする気になれず、エリオットは曖昧に返答した。
彼は現在二級魔導士で、風や土の魔法を得意としている。
精霊王との契約は魔法使にとって重要な意味を持つ。それをするもしないも本人次第。しかしモーガンはそう言ってかなりの年数が経っている。

エリオットはげんなりとしながらモーガンの話を聞いていたが、適当な理由をつけてその場を後にした。



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