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「……『なんだお前か』って顔すんなよ」
「ラルフ……」

苦笑しながらラルフが隣に座った。頭ひとつ分背の高い彼と並ぶと自分の方が陰になる。

「師団長殿を放っておいていいのか?」
「ああ、いいんだよ。あの方は模擬戦に夢中だから。宮廷に誘えるような有能な人材を探すのに必死なんだよ。付き添いはもう一人いるしな」

かく言うラルフも最終学年時の模擬戦で優勝し、宮廷に引き抜かれたくちだ。
宮廷魔法使になるには並の魔法使では務まらない。それが卒業後すぐの道を約束されたラルフに、学内が沸いたものだ。

「それにしてもあいつ、度胸あるなあ」
「あいつ?誰だ?」
「おい、さっきのことなのにもう忘れたのかよ。お前をパートナーに誘ったガキ」
「ああ……」
「あいつとは交流があったのか?」
「オーウェンは学年首席の生徒代表だからな。教師として、それなりに」

それがまさか、あんなことを提案してくるとは露ほども思わなかったのだ。
親しくした覚えはないし、今もってただのいち生徒としか思っていない。

「つうか、びっくりしたんだけどよ……お前あの赤毛美女をダンスに誘ったんだな」
「まあ……成り行きで」
「恋人か?」
「まさか。ただの仕事仲間だ」
「それにしちゃかなり親密っぽかったけどな?」

それは、セシリアのほうがぐいぐいと押してくるので流されてしまうだけだ、と言いかけてやめる。誘い文句を口にしたのはそれでもエリオットの意思だったからだ。
恋人がいる身で、やはりあんな約束などするべきではなかった。何をしたわけでもないがどこか後ろめたい。
おまけに何故かラルフも責めるような瞳でじっと見つめてくるから落ち着かない。

「……何度か二人で食事には行ったが」
「ヤった?」
「そんなわけないだろう!」

エリオットが頬を真っ赤にして怒鳴ると、ラルフは驚いたように目を瞠った。

「どいつもこいつもそんなことばっかり……人の交友関係の詮索ばかりして何が楽しいんだ!」
「そりゃあ気になるからだろ」
「何が!」
「お前のことが」

ラルフが目を細めてエリオットの腿に手を這わせた。
その不埒な動きにエリオットはビクッと肩を震わせた。

「……えらく感度いいんじゃねえ?」
「な、なにを……」

ラルフの手がするすると腿を滑る。内側に指先が入り込みきわどい場所を撫でた。

「……ぁ、ちょ、ラルフ」
「やっぱり恋人、できたんだろ? 敏感すぎ」

急にラルフが雄の顔をしたのでエリオットは驚いて彼の手を跳ね除けた。
しかしそれを逃さずラルフはエリオットの細腰をぐいと抱き寄せた。肩に乗せた杖が地面に落ちる。
ラルフが耳に唇を触れさせながら喉で笑った。

「お前今、すっげえエロい顔してる」

カッと全身の熱が上がる。エリオットはラルフの厚い胸板を押し退けた。
しかし体格の良い彼はびくともしない。

「笑えない冗談は、止せ……!」
「冗談のつもりなんてねえよ。俺は、ずっとな――」


――お前をそういう対象として見てたんだ。

そう囁かれて、エリオットは背筋に悪寒が走った。



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