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彼は学年首席で生徒代表のオーウェンだ。秀麗な顔をやけに神妙にさせてエリオットの目の前に立っている。
気がつけば周囲は静まり返っていてエリオットとオーウェンを注視していた。
生徒代表のオーウェンはカリスマ性や影響力があるので自然とそうなるのだろう。

「……?どうかしたか」
「あ、あのっ、ヴィレノー先生!」

オーウェンが上ずった声で言う。どこかでくすくすという笑い声が聞こえた。

「ぼ、僕が模擬戦で優勝したら、僕とダンスパーティーに行って下さい!」
「……はあ!?」

どっと場内が沸く。冷やかすような口笛や黄色い歓声や悲鳴がそこかしこで上がった。
エリオットはそこでようやく思い出した。昨日の見回りの時に彼が友人達と話をしていたことを。
あれは女生徒ではなく、まさか自分を誘う算段をしていたのだと知って、エリオットは眩暈がした。
オーウェンが後ろで手を組みながら大声で言う。

「お願いします!!」
「いや、あの……すまないが、先約が……」
「いいわよ」

横からセシリアが勝手に許可を出す。エリオットは慌てて彼女を見た。

「彼は私と約束してるの。でも、あなたが優勝したら譲ってあげてもいいわ」
「ア、アンスラン教授、そんな、僕は――」
「わかりました!見ててください、絶対に優勝します!では、失礼します」

セシリアとオーウェンが勝手に約束をして、そしてさっさと去ってしまう。
エリオットは渦中の人物にもかかわらず完全なる置いてけぼりだった。
あっけに取られながらオーウェンのうしろ姿を見ていると、セシリアに腕を引かれた。彼女が恋人のようにしなだれかかってくる。

「ふふ、面白くなってきたわね」
「教授!あんな勝手に……僕は、約束なんてできませんよ」
「いいじゃない。卒業前の良い思い出作りだと思って協力なされば。ほら、生徒たちも刺激が加わって楽しそう。けど彼、優勝は出来ませんわよ。あなたは私とパーティーに行くのだから」
「……教授」

怒りを抑えた声音で言うと、セシリアがますます面白がるように笑った。

「怒った顔も素敵。ねえ、私を少しでも意識してくださってる?」
「冗談もほどほどにしてください。……僕はもう、誰とも行きません」
「約束を反故になさるの?ご褒美のために頑張ろうとしてる彼が可哀想ね。もちろん私も。女性に恥をかかせる気?」

エリオットはそれ以上答えず、セシリアの細くしなやかな腕をはずして踵を返した。
これから見回りに行くらしい同僚のチャールズを捕まえて、当番を代わってくれるよう強引に話を通す。人の良い彼は事情を知らないままに二つ返事で役割を交換してくれた。

腹立ちまぎれに足音荒く廊下を歩く。遠くから模擬戦が始まった音がした。
校舎を歩いていると徐々に喚声や轟音が遠くなっていった。


一時間ほど校内の見回りをしたら、先程までの憤りも少し治まっていた。

エリオットは中庭に立ち入り中央部分に設えられている東屋に足を踏み入れた。
ベンチに腰を下ろし、杖頭を肩に乗せてずるずると座り込む。

衆目に晒されるこういった騒動に巻き込まれることをエリオットは何より嫌っていた。だから人とは常に一歩引いた付き合いしかしていないのだ。
それなのに、クロードとの謹慎騒動の後あたりからやけに積極的に話しかけられるものだとは思っていた。ジンイェン曰く雰囲気が全体的に柔らかくなったからだというが。
親しい顔は恋人に見せていれば十分だと思っていた。しかし久々の恋に浮かれすぎていたのかも知れない。
それもこれもジンイェンのせいだと空中に向かって無意味な八つ当たりをする。気分が浮くのも沈むのも、全部彼のせいだ。
会って怒鳴り散らしてやりたい。――そして、甘えたい。

ざり、と地面を踏みしめる音がして、エリオットは顔を上げた。


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