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二人はたびたびこういった軽口を交わしていた。
最近はラルフが会うたびに口説くような冗談を向けてくるので、あしらうのが面倒でエリオットは辟易している。

反面、内心冷や冷やしていた。今は冗談ではなく同性の恋人がいるだなんてことは、口が裂けても言えない。
その恋人とも仲が危ういと知れたらラルフからどんなからかわれ方をするかわからないのだ。
それを思うと胃のあたりがしくしくと痛み、重くなる。こういうときは崩れることを知らない無表情がありがたい。

「つーかお前さ、オルギット旅団長に宮廷魔法使に俺っていう親友がいるって話さなかったのかよ」
「は、親友だって?僕の進路に一人で臍を曲げて何年も連絡を絶つような親友がいるか?」
「そりゃ……悪かったって。俺は本気でお前と一緒に宮廷魔法使になりたかったんだよ」
「ふぅん、そうか」
「それにお前のほうから連絡してきてくれるかと思ったんだ」
「薄情で悪かったな」

エリオットは決して友情に厚い方ではない。けれど学生時代仲の良かったラルフに絶縁宣言をされたのはそれなりにショックだった。
それはティアンヌのことでかなり落ち込んでいた時期と重なっていたので、根に持っているのはエリオットの方かも知れなかった。

「さて、と……あんまり傍を離れると閣下がうるさいんでな。俺はそろそろ戻るわ」
「そうか。師団長殿によろしく伝えてくれ」
「おう。オルギット旅団長をやり込めた魔法使がお前だって知られたら宮廷から勧誘に来るかもしんねぇから、例の噂は適当にごまかしとくわ」
「勧誘は勘弁して欲しいな。そうしてくれ」
「いや、本気なんだけど……」

軽く笑い飛ばすエリオットを見て、その真剣さが伝わっていないことにラルフが苦笑する。
じゃあ、と手を振ってラルフが去るとちょうど昼食休憩の時間になった。
エリオットは昼食を宿泊部屋でとると決めていたのでさっさとその場を離れる。早く移動しないとジェレミあたりに捕まってしまいそうだ。



昼食後は校舎の見回り当番だった。
広い校舎を一時間かけて見回る。悪戯を画策している生徒がいれば取り締まる、不審な部外者を見かけたら排除する。そのためにエリオットは自身の杖を持って見回りに当たった。
ひと気のない廊下を歩いていると、ふと、空き部屋の中から複数人の気配がして耳をそばだてた。

「……えで、オレやるから」
「マジかよ。全然望みねーじゃん」
「だって今年で卒業だぜ?絶対誘うから」

中から聞こえてきた声に少し驚く。最上級生の生徒代表の少年だ。成績優秀で頼り甲斐があり、容姿が優れていることもあって多くの生徒に慕われている存在だ。
卒業後は最高学府に進学することも決まっている当校きっての優等生である。エリオットも何回かフェリクス代講の実践学で会話したことがある。
どうやら彼は友人達と三人で話しているようだが、何か相談事のようだ。

「つっても脈なんかねーだろ」
「いやいや、だって最近話してるとよく笑ってくれるしイケるって!あー絶対あの人と踊りてー!笑った顔がめちゃくちゃ可愛いんだもん!」
「すっげえポジティブだなお前……」

生徒代表の彼はこれから女生徒をダンスパーティーに誘うらしい。彼ならばどんな女子も断らないだろう。
しかしパーティーは明日だ。こんなにギリギリではすでにパートナーが決まっている可能性もある。
微笑ましい会話に内心で激励し、無害だと判断したエリオットはその場をそっと離れた。







一日目の競技はつつがなく終了した。
三組は赤、青、緑で色分けされており、現在優勢なのは緑だ。
二日目には勝ち上がり戦があるのでそこで点数はまた大きく動くはずだ。

(……ジンは今頃何してるかな)

エリオットは宿泊部屋の窓に額を押し付けてゆっくり目を閉じた。
すでに夜も更けた。こんな静かな夜はジンイェンと触れ合ったことばかりを思い出す。
彼に会いたくて堪らないが、会ってしまったら最後――別れを告げられるのではないかと思って不安になる。
ジンイェンの煮え切らないあの態度。情事の熱を中途半端に放り出されたやり場のない怒り。どれを取ってみてもあの日は最悪の夜だった。


エリオットは部屋の灯りを落として早々にベッドに潜り込んだ。



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