2


一順間後の魔術対抗戦は二日間に渡って行われる。
二日目の夜、そのフィナーレとしてダンスパーティーが催されるのが通例だ。

生徒も教授も入り混じった舞踏会はパートナーを連れて参加をすることができる。
パートナーにこれといった決まりはなく、恋人同士、仲の良い友人同士、中には教師と生徒という組み合わせも見られる。
しかしパートナーとして参加すれば、それは親密な相手同士なのだと誰もが認識した。だから参加する者にとってパートナー選びは重要だった。

もちろん一人で参加して、その場の雰囲気で複数の相手と親交を深める者も珍しくない。校外に相手のいる者や特定の相手を作りたくない者は皆そうしている。
生徒は強制参加なので学生当時は単身参加していたが、エリオットは教授職に就いてからはパーティーを見ることなく早々に帰宅していた。

「……僕は今、恋人がいますから」
「あら」

セシリアが整えられた片眉をひょいと上げた。
予想外の言葉だとばかりに大げさに驚いた表情をしている。

「それはフェノーザの方?」
「いえ……」
「真剣に将来を考えてらっしゃる?」
「それは……まだ、そういうわけでは」

言ってからエリオットは昨夜のことを思い出して顔を曇らせた。
――遊び、だと。
男同士のしがらみは十分理解しているつもりだ。だがジンイェンとの関係を、第三者の口から真正面から切り出されて苦しくなった。
ジンイェンもあれほどの男前なのだ、女性から引く手数多なのは分かっている。いずれ彼が離れることなど容易に考えられることだ。

そう、今だけの関係、だ。

エリオットの言葉を聞いて、セシリアは優雅な仕草で両手の指先を合わせ真っ赤な唇を弧に描いた。

「でしたら気兼ねなさることはありませんわ。友人同士でだってパートナーとして参加できるのですから。あなたと私は良いお友達でしょう?」

良いお友達、とセシリアが蕩けるような甘い声音で言う。そうやって巧みに逃げ道を絶ち、エリオットを誘うのが彼女の常套手段なのだ。
ジンイェンの昨日の態度を思い出したエリオットも少しばかり自棄になってそれに乗った。

「……わかりました。ではセシリア、僕とパーティーへ」
「もちろん、お受けしますわ」

にっこりと魅惑的に微笑むセシリアにエリオットは一瞬見惚れた。
自分の魅力を最大限に引き出した笑顔なのだろう。エリオットにはそういった器用なことは出来ない。無表情が張り付いて普段笑うことすら稀なのだ。
ジンイェンの傍にいると自然に笑みが零れてしまうのは、やはり彼のことが好きだからこそなのだ。

「ではまた。楽しみにしてますわね」
「……ええ……」

薄手で透ける布地の薔薇色のローブをふわりとなびかせて、セシリアはその場を去った。
盛装用のローブなど端から持ってきていない。明日の朝にでも一度家に戻って取りに行かなければならないことに、エリオットは嘆息した。

気を取り直して鞄を持ち直し、寮の方へと歩き出す。宿泊施設で入室手続きをしたら午後からは仕事だ。学校が休みでも教授や准教授の仕事は山積みなのだ。
特に対抗戦前後は通常業務が滞りがちなので今のうちに進めておかなければならない。


エリオットは准教授の仕事の中でも面倒な事柄を一手に引き受けているので目が回るほど忙しい。
授業で使う扱いの難しい薬品や魔術道具の在庫を確認し注文を取りまとめて魔法使協会に書面を出したり、生徒に向けた連絡事項の内容を清書したり、教材を倉庫から取り出してきたり――。
教授達は揃ってマイペースで、他に任せると進みの遅さに苛々してしまうので頼まれるとつい承諾してしまうのだ。

泊まり込みだと公私の線引きが出来なくなってしまうので余計に忙しさは増した。
家に帰ってジンイェンの顔を見て触れ合うのが、至福の時だったのだと改めて思う。彼に寄り添う心地良さは何物にも代え難い。



prev / next

←back


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -