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「ジン……」
「ん、なぁに?」

エリオットはジンイェンの髪を指で梳きながら肩口に顔を埋めた。
ピアスの穿たれた耳元に小さく囁く。

「……だ、抱いて欲しい……」

声は震えていなかっただろうか――言ってしまってから羞恥でカッと全身が熱くなった。
しばらくジンイェンが沈黙する。
やはり性急だったろうかと心配になった頃、視界が反転した。軽々と体勢が逆転する。
ジンイェンがエリオットの手首をベッドに縫い留めながら押し倒していた。
その表情は先程のような笑みの欠片もない、恐ろしいほど真剣な表情だった。

「……いいの? 俺、アンタが泣いても嫌がっても途中で止めらんないよ?その覚悟ある?」
「あ、ある……」
「本当に?」
「ああ」

灰色の瞳を真っ直ぐに見つめながらエリオットは頷いた。それを見てジンイェンがふっと口元を緩める。
そのまま首筋に熱い唇が這って、エリオットは吐息を吐いた。
かぶりつくように肌に軽く歯を立てられると、どうしようもなく体の芯が疼いた。

「あ、あ……ジン……」
「ん……」

唇を辿った箇所が軌跡のように薔薇色に染まっていく。
ジンイェンが乳首を吸った。吸われながらぬるりとした舌先で芯を押しつぶされるとたまらなく気持ちが良い。少しいじっただけで乳首はぷっくりと立ち上がり赤く色づいた。
エリオットは与えられる快感を全て享受したくて、瞳を閉じて熱い舌の感触に集中した。

「あっ、あ、ん……あっ」
「ほんと、エリオットはココ好きだね。特に左がいいんだっけ?すげー感じすぎ」
「だ、誰のせいで……あっ!」
「うん俺のせい。もっとエロいアンタが見たいな」
「ば、馬鹿……」

白い肌に映える真っ赤な乳首は扇情的でジンイェンはごくりと唾を飲み込んだ。
舌で転がしながら空いた方を指で弾いたり押しつぶしたりすると、エリオットが腰をもぞもぞと捩った。

「下も触ってほしい?」
「……ん」
「だめー。俺もうちょっと胸弄りたいから」
「ジン……ちょ、あっ」

乳首への愛撫が再開されて、エリオットは艶めいた声を上げた。
すでに股間は張り詰め下衣を押し上げている。快楽に素直になった体は次の刺激を欲していた。

「ジン……もう、触ってくれ……」

エリオットが上ずった掠れ声で囁くと、ジンイェンが突然行為を止めて上半身を起こした。

「……マジで、空気読めよな」

ジンイェンの不機嫌そうな低い声がして、エリオットは驚いて閉じていた目を開けた。
何か彼の機嫌を損ねるようなことをしてしまったのかと不安になったが、それは勘違いだとすぐに察する。
起き上がったジンイェンの首筋に細身のナイフが当てられていた。その背後にはいつの間に侵入したのか黒ずくめの人影がある。

「よりによってこのタイミングで来るか?普通」

振り返ることなくジンイェンが言う。この状況に心当たりがあるようだった。
人影はよく見れば、目の部分だけ穴の開いた表情のない奇妙な白い仮面をつけていた。
目立つのはそれだけで、他は動きやすそうな漆黒のヒノン装束を纏っていた。

「やだなぁつれないこと言わないでよ、ジン」
「今日ほどお前を殺したくなったことないわ。フゥ」
「兄さんに向かってなんて口を利くんだ。ジンは悪い子だねぇ」

中肉中背の仮面の男が穏やかな口調で咎めるように言った。
まだ状況を把握できないエリオットは『兄』という単語にただ驚いた。

「……何しに来たんだよ兄貴。返答次第では本気でぶっ殺す」
「ごめんね?ちょうどイイ所だったかな」
「見ればわかるだろ。邪魔しやがって」

ジンイェンの口調は完全に怒っていた。
それはそうだろう、せっかく盛り上がっていたところに水を差されたのだ。エリオットも困惑しつつかなりがっかりしている。
おまけに情事の最中に乱入されて羞恥心でどうにかなってしまいそうだ。穴があったら入ってしまいたい。

「ジン……一体、これは」
「あ、初めましてエリオット。ジンの兄のフゥでーす」

フゥは首筋に当てたナイフはそのままにジンイェンの肩に頭を乗せながらエリオットに名乗った。
まるで緊張感のない口ぶりだが、フゥから受ける印象は「得体が知れなくて恐ろしい」の一言に尽きる。エリオットの名を当然のように知っていることもそれに拍車をかけた。



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