仮面の男


それからひと月が過ぎた。
エリオットはつつがなく通常の生活に戻り、ジンイェンもカルルと組んで狩猟業を復活した。

三日と空けず二人は夜に睦み合ったが、ジンイェンが丹念に愛撫するせいで最初はくすぐったがっていたエリオットはすっかり快感に慣らされてしまった。

特に乳首を執拗に愛撫されて女のようによがるまでになったのはエリオットとしては不本意だったが、ジンイェンは満足げであった。
挿入はしないが互いに擦りあったり口でしたりと触れ合う方法はいくらでもある。
けれどジンイェンは不満に思っていないだろうか――エリオットはそれが気がかりだった。



七の月も半ばになるとフェノーザ内の生徒は沸き立っていた。年に一度の魔術対抗戦があるのだ。
全校生徒を三組に分け、魔術を使って点数と勝敗を競う。どの魔術校でも同様のことが行われているこの行事は生徒にとっては祭のようなものだ。

大陸中から来賓も招かれ校内はかなり賑わう。
一方で一般市民は学内に入場できない決まりだが、それに合わせて街も余所からの人間が集うのだ。ジョレットにはこれといった祭がないせいかもしれない。
招かれる来賓達は名のある大物が多いので一目見たいという群集心理が働いているのもあるだろう。それ目当ての行商人が増えるので余計に人で溢れるという仕組みだ。
普段治安の良いジョレットもこの時期だけはかなり危なくなる。
エリオットはそれを避けるため毎年学内に泊まりこんでいた。

「――というわけで、僕は明日からしばらくフェノーザに泊まろうと思うんだが」

朝食の席で、エリオットは食後の茶を飲みながらジンイェンにその旨を話した。ジンイェンが驚いたように目を丸くする。

「え、だったら俺が送り迎えしようか?」
「行きはともかく帰りはどうするんだ? きみ、帰りが夜中になる日があるだろ」
「あーそっか……」

ジンイェンの仕事は基本的に日帰りではあるが、出発も帰宅も休日もまちまちでエリオットとは微妙に生活がずれていた。
彼は彼の生活があるのだから自分につき合せるわけにはいかない、とエリオットは申し出を断った。

「あれ、でも空間移転の魔術があったじゃない。それ使えば?」
「それでもいいんだが、対抗戦の準備で普段と異なる仕事もあるから泊まり込んだほうが都合が良いんだ。それにこの時期は外部者も多くなるから。きみは、僕が誰かに誘われると嫌だろう?」
「うん、やだね」

見目麗しいエリオットを誘いたがる不埒な輩は男女問わずにいる。
そのせいでトラブルに巻き込まれたことも少なからずあり、嫌な思い出しかないエリオットは顔を顰めた。
もちろんそういった厄介事はエリオットに限った話ではない。特に女性の一人歩きなどは避けなければならない。

「……えーと、で、対抗戦?それっていつなの?」
「一順間後だ」
「そっかその間会えないのかぁ、寂しいね。……あ、じゃあ俺も明日から家空けようかな?カルルからちょっと遠くの狩りの話が出てさ。メルスタン方面だから泊まりになりそうなんだよね。いいかな?」
「ああ、構わない。そういうことなら賊除けの術をいつもより厳重にかけておく」

話は決まったとばかりに、同時に席を立つ。
朝から少しばかり濃厚な別れの口付けをして互いに家を出た。


学内でも対抗戦に向けて泊まり込みの教授は多く、エリオットが宿泊施設に申請したときはほとんど部屋が埋まっていた。
食事や洗濯などは併設されている学生寮と共同で専門業者が一括で面倒を見てくれるのでかなりありがたい。
しばらくジンイェンの料理から離れなくてはならないのが不満といえば不満だ。

エリオットが業務を終えて帰宅すると、ジンイェンはまだいなかった。作り置きの料理を食べたあとに荷造りをしていると、あっという間に深夜になった。
汗を流して先にベッドに入る。ジンイェンとはこのところ同じベッドで眠るようにしていたので習慣で端に寄った。

手元の灯りをつけたままベッドの中で本を読んでいるとジンイェンが帰ってきた気配がした。階下でゴトゴトと音がしている様子に耳を済ませる。
しばらくすると寝室のドアが開き、上半身裸のジンイェンが湯浴みで濡れた頭を拭きながら姿を見せた。

「あれっ、起きてたの?」
「きみを待ってたんだ」
「そっかー、ごめんね遅くなって」

ジンイェンが笑いながらベッドに潜り込みエリオットの腰に抱きついた。
すんすんとエリオットの香りを嗅ぎながらジンイェンがうっとりと目を閉じる。彼は寝るときにあまり衣服を着ない性質なので、このまま寝るつもりらしい。
エリオットもベッドに潜り込みジンイェンを抱きしめた。

「……あ、そうそう。今朝の件カルルに話したよ。俺も明日の朝出発するね」
「わかった……ん……」

小声で話しながらジンイェンがエリオットの腰から手を滑らせて尻をやわく揉む。すっかり快楽に慣れたエリオットは敏感に背筋を仰け反らせた。
どちらともなくついばむようにキスをする。ジンイェンの唇はかなり酒臭く、やけに上機嫌なのは飲んできたせいらしい。
猫の見合い亭あたりで仕事終わりにカルルと一杯引っ掛けてきたのだろう。

「んー……しばらく離れちゃうし、ちょっとやらしーことしよっか?」
「ジン……」
「ていうか、したいってエリオットの顔に書いてあるし」

唇を離したジンイェンがからかうように笑う。そんなに分かりやすかっただろうかと、エリオットは頬を真っ赤に染めた。
ジンイェンの手が夜着の裾から滑り込み素肌を撫でる。

エリオットは体を起こしてジンイェンの胸元に唇を落とした。ちゅうと吸ってみるがなかなか痕はつかなかった。吸い痕をつけるのはコツがいるらしくいつも上手くいかない。
早々に諦めて、エリオットは唇を食んだ。ジンイェンもそれを受け止め気持ち良さそうに目を眇めながらエリオットの上着を脱がせた。



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