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エリオットは狩猟者の腕輪のことから、魔法使ギルドへの遣い、メグと会ったこと、暗黒通りでの魔物襲撃事件、その時に出会ったクロードのことを順序通りに話した。

「……泊まったの。あの男の家に」
「勘違いするな。他の避難民もたくさんいた中の一人だ」

エリオットは、クロードの部屋に泊まったことはいらぬ諍いを起こしてしまいそうだったので黙っておいた。
ジンイェンもそこはそれ以上突っ込んで聞いてこなかった。

「それで……次の日フェノーザ校までクロード殿が送ってくれて」

フェノーザ校で彼の正体を知ったこと、そのあと彼に連れ回されたこと、その末のあの頬へのキス――。
ジンイェンはそれらを聞いて片手で目を覆い、苦々しげに嘆息した。

「あのさ、こんな時にこんなこと言うのアレなんだけど、それエリオットめちゃくちゃそいつに狙われてるからね?」
「馬鹿なことを。僕もクロード殿も男だぞ」
「じゃあ俺は?俺だって男だけど」
「ジ、ジンは……その、特別で……」

エリオットがもごもごと口の中で言いながら頬を染める。
しかしすぐに咳払いをして体勢を直した。

「とにかく、まあ……結果的に言えば僕もちょっと警戒が甘かった。……きみにあらぬ誤解を抱かせてしまったことは、謝る。誓って言うが、クロード殿とは何もない」
「うん……いや、こうやってちゃんと話聞けばよかったんだよね。俺、アンタ相手だとどうも焦るっていうか、調子狂っちゃうみたいでさ……」
「ジン……」
「……俺を、捨てないでくれる?」

ジンイェンが真剣な顔で言う。
そんなことしないと言葉が出かかったが、エリオットはとっさにそれを飲み込んだ。やはり、それにしたってあの暴挙はまだ許せなかった。
返答がないことは予想していたのか、ジンイェンも決してしつこくせず一回深呼吸した。

「俺もね、あの子……楽士のあの子ね、何もないから。実はあの子、っていうかエリオットは狩猟者じゃないから知らないかもしれないけど楽士って情報屋も兼ねてるんだよね」
「……情報屋?」
「ほら、あの人たちって各地を回って歌とか踊りで生活してるから、大陸中で伝え聞いた情報も一緒に売ってるわけ。他にも口伝の伝承とかにも詳しいから、狩りで行くような古い遺跡のこととか、魔物が出没する場所とか、俺たちはあの人たちから情報を買うんだ」
「へえ……」
「それで、俺が知りたい情報を持ってる子が首都にいるってマッジから聞いてね。で、ガランズに行ってたんだよね。そしたら魔物騒動に俺も巻き込まれてさ」
「暗黒通りでか?」
「俺は神殿前。エリオットも聞いてるかもしれないけど、あの襲撃事件は暗黒通り、神殿前、魔法使ギルドで起こってる」

その情報は初耳でエリオットは素直に驚いた。
同時にあの日訪れた場所で同様の事件があったことに背筋が冷えた。

「魔法使ギルドがたぶん一番早く収束したはずだよ。で、一番手間取った……っていうかグルグスが一番でかかったのは神殿前のやつだ」
「グルグスって?」
「あの気色悪い黒い触手の魔物の名前。俺も初めて見たけど、あれ、西や南の方にたくさん生息してるやつだ」
「メルスタン領か」
「そう。でも雨のエーデニアの国境付近にいるから普段はそんなに強くない魔物だよ。もっと小さいはずだし……って楽士の子が言ってた」

年間通して雨の多い西のエーデニア公国近くは水量が豊富で湿気が多い。水が弱点のグルグスはたしかにさしたる脅威ではなさそうだ。
首都であるガランズ周辺は晴れの日が多く乾燥しがちだから、あんなにも大きく育ったのだろう。
あのどろりとした体液は見た目の通り乾留液としての使い道があり、狩猟者の手でよく採取されているのだという。

そんな魔物が何故突然オルキアに現れたのか――。
ふとクロードの言葉を思い出す。「魔物が活性化している」と。

「で、俺も神殿前のやつの討伐に参加したんだけど、乗るはずだったヒノン方面の馬車が全滅しちゃったから、一旦帰ってきたってわけ」
「……そうか」
「そしたら家にエリオットいないし、おまけに帰ってこないしで、俺……その」
「その先は言わなくていい」

ぴしゃりとエリオットに断言され、ジンイェンは黙った。


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