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「……見てたのか」
「うん、全部ね」
「あれは頬に軽く触れただけの別れの挨拶だ」
「挨拶?あれが?」

訝しげにゆっくりと低く言われ、エリオットは少し萎縮した。しかし負けじと胸を反らして言い返す。

「だいたいきみはいつ帰ってきたんだ。留守にするのは一順間とか二順間とか言ってなかったか?」
「昨日」
「は?」
「……昨日どこに行ってたの?俺一晩待ってたのにアンタ帰ってこないし……」
「……昨日は……」

色々あった事柄をどこから説明すればいいかと考えるエリオットを見て、ジンイェンが苛立ちを滲ませながら言い募る。

「ね、ずっとあの男といたの?一晩中……今までずっと?一度も帰らずにああやってベタベタして?」
「下世話な勘ぐりはよしてくれ!僕は何も――」
「嫌だ」
「は?」
「俺はアンタを誰にも渡さない」
「それは……」

こっちの台詞だと言おうとして不意に言葉を飲み込む。昨日のことを急に思い出す。
メグと暗黒通りに行った時に見かけたジンイェンに似た黒髪の男は、間違いなく本人だったのではないかと。
ならばあの魔物騒動で仕方なく一時帰ってきたのだと思うと得心がいく。

――だとすると、一緒にいた女楽士は誰だったのか。
親しげに腰を抱き、顔を寄せ合って歩いていた彼こそ、エリオットの目の届かない場所で不義を働いていたのではないか。

胸の中に重く冷たいものが詰め込まれたかのようになる。
自分もしていたことだから、こうして責めているのでは、と思うと腹が立った。

エリオットは幼い悋気にジンイェンから顔を背け目を閉じた。
するとあっという間に体を反転させられ壁に押さえ付けられる。肩を壁に押し付けられると頬が壁に触れた。
エリオットはビクッと肩を跳ねさせた。ジンイェンが後ろから手を回し股間を握ったからだ。

「ちょ、ジン……」

こんなときに何を、と言おうとしてそれを中断される。
ジンイェンの舌が耳の後ろを舐めたので妖しい感覚が背筋を駆け抜けた。

「ジン……何……」
「……エリオット……」

ジンイェンの手が性急に体をまさぐり、長いローブを腰までたくし上げた。
嫌な予感がする。
ジンイェンはエリオットの首に唇を這わせてしきりに口付けながらシャツの釦をはずしていく。
腰のあたりに固いものが押し付けられ、エリオットは抵抗するように体をよじった。

「ちょ、ジン……い、嫌だ……!」

しかしジンイェンは無言でシャツの隙間から片手を差し入れ、エリオットの胸を撫でた。

「ジン!嫌だ!」
「イヤなの?どうして?……俺に触れられるのはイヤ?」

抵抗してもなおジンイェンの手は動き回り、指先に乳首が触れると強く引っ掻いた。

「痛っ……」

相手のことなど考えない自分勝手な性欲をぶつけられ、エリオットは頭にきた。
一発殴って目を覚ましてやろうと思ったが、その前にまた股間を握られてしまう。

「……っ、……う」

先日の魔力交合とは違うのでそうされてもすぐに快感など湧き上がらない。ただただ、悔しかった。
ジンイェンの手がベルトをはずし、スラックスと下着をずり下げる。まさか、とエリオットの血の気が下がった。

「嫌だ!やめてくれジン!」
「やめない」

乾いたそこにジンイェンの熱が宛がわれ擦りつけられる。
挿入の衝撃を思い出したエリオットはせめて体で覚えた結合時の力の抜き方を行う。
それでも、慣らされていないそこはジンイェンを拒むように固く閉じたままだった。



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