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一学期の期末テスト期間に入る直前の日曜日、午前十時三分。
休日にもかかわらず、オレは、いつも通学に使ってる停留所からバスに乗り込んだ。今日は学校じゃなく駅に向かうためだ。
ステップを上がって後方座席を見ると、二人掛けの場所に座ってるセンパイと目が合った。

「あ、センパイ?おはようございます」
「おはよー、寒河江くん」

動き出したバスに揺られながらセンパイの隣に座ったら、若干距離を取られた。
オレのためにスペースを空けてくれたのか、近づきたくないっていう無言の意思表示なのか。かまわず距離を詰めればそれ以上は動かなかった。

「前回もバスで会いましたよね」
「うん、まぁ、駅行くのに使うバス同じだし」

今日は例の『女子が喜びそうなデートスポット』巡りをする約束で、駅の改札前で待ち合わせることにしてた。
だけどこの五番バスを使うのはセンパイだって同じなんだから、バスの中で会って当然なんだよな。

「なんか待ち合わせの意味ないっすね。次からはバスの時間指定にします?」
「だね、そのほうがいいかも」

センパイがすぐに頷いたから嬉しくなった。
だってオレと出かけるのが嫌じゃないってことだし、この先の約束も許してくれたし。
気分良くバスに揺られ、電車に乗り換えた。

――今回の目的地は公園だ。
公園っていっても競技場やいろんな施設が併設されてる超デカイ運動公園。だからオレもセンパイもそろってスポーティーな服装だ。
センパイはオレのアドバイスを守ってるのか、当初とは見違えるほど爽やかで垢抜けた印象になってる。地味にまとまらないための差し色の選択もいい。

電車を降りて改札を抜けたら、公園とは逆方向の出口から外に出た。
センパイが不思議そうな顔してオレのあとについてくる。

「あれっ?公園あっちって書いてあるよ?」
「行く前に買い物」
「何を?」
「まあ、色々と」

それ以上聞かずにただついてくるセンパイと二人で、徒歩数分の場所にある百円ショップに入った。
おもちゃコーナーに向かい、そこで手に取ったのはラケットだ。

「バドミントン?」
「そ。安上がりでけっこー遊べるんですよ、これ」

広い公園で軽いスポーツは健全なデートとして鉄板。
これならラケットが二本入っててシャトルつきだから買ってすぐ遊べる。しかもボールと違って遠くまで飛んでいかないから、体を動かすのにちょうどいい。
そんなことを説明しながら会計したあとに、センパイはスポーツドリンクを二人分買ってくれた。

それから駅に戻って、ようやくオレらは公園方面の出口に向かった。
去年何度も愁たちとダンスの練習で来ていた公園だから、地図なしで歩けるくらいにはオレ的に馴染みがある場所。
そうはいっても知り合いに会いたくないから、練習で使ってたところとは別の広場を目指した。

広々した芝生の広場にもかかわらず人が多かった。梅雨の時期にこんな晴れの休日は貴重だから仕方ないけど。
でも、センパイは人の多い場所を嫌がらないから楽だ。混雑を嫌う人だとそれだけで雰囲気が悪くなるし。
空いた場所に移動してラケットの片方をセンパイに握らせた。それでセンパイの気分も乗ってきたらしくて、そわそわと素振りをはじめた。

「どっちが先に打ちます?」
「じゃんけんで決めようよ」

一回のあいこでオレが先攻になった。
ラケットの上で何回かシャトルを跳ねさせて飛び具合をたしかめてると、センパイは小走りでオレから離れて構えの姿勢をとった。
わくわく顔してるのがおかしくて、打つ前にちょっと笑ってしまった。
なんでバドミントンごときでそんな「受けて立つ!」みたいな気合の入れ方するんだよ。こっちが脱力するじゃん。

「じゃ、いきますよ」
「来い!」

センパイがどの程度スポーツできるのか分かんなかったから、まずは打ち返しやすいようにポコンと上に打ち上げた。
空振りすることもなく難なく羽根が返ってきたのをいいことに、同じ力でまた返した。

しばらくラリーを続けてみたけど、この程度の動きは楽勝らしい。そういえば動画で見た文化祭のパフォーマンスでもいい動きしてたっけ。
センパイは撫で肩のせいで頼りない体格に見えるけど、運動神経はいいほうみたいだ。
そんな感じで分析してるうちに緩やかなやりとりがだんだんダルくなってきて、ふと悪戯心が働いた。
センパイの立ってる場所からずれたところへわざと打ち込む。

「うぉっ!?……っとと!」

お、取った。
機敏に反応したもののラケットのフチに当たって打ち返せず、シャトルは芝の上にコロンと落ちた。

「あの体勢からよく届いたじゃないですか、スゲー」
「そーゆーのアリなの!?」
「や、つまんなくなったんで」

女子とならゆるゆるラリーで時間潰しになるんだろうけど、オレとセンパイじゃ物足りない。正直、トロくて体力の消耗が中途半端だ。
それにこの人とどこまでやれるか試してみたくなった。学年が違うから体育の授業で一緒にやるなんてこと絶対にないし。
センパイもオレの言いたいことを察してくれて、落ちたシャトルを意気揚々と拾い上げた。

「よぅし、こっから本気でいくから覚悟しろよ、寒河江くん!」
「上等っす」

準備運動みたいに手首を回してからラケットを構えた。いつしかオレもわくわくしてる。
これまでとはうってかわって速度を増したサーブでシャトルが飛んでくる。
それを下から掬うようにして受け、さっきみたいにずれた場所に向けて打ち返した。
センパイも今度はオレの動きを予測してたらしく、仕返しとばかりに対角線上に勢い良く打ってきた。

「うわマジで!?」

まさか返されると思わなかったから、大きく振られる形になったオレはラリーを取りこぼした。
離れた場所でセンパイが得意げな顔でこぶしを握ったのが見える。

油断したことが悔しくて、地に落ちたシャトルをラケットの先で拾い上げたあとすぐにサーブを打った。
不意打ちのサーブに驚いた顔をしたセンパイは、シャトルを受けたけれど上に大きく打ち上げた。チャンスだ。

緩やかな放物線を描いた羽根を捕らえてスマッシュを繰り出した。
白いシャトルが風を切って鋭い軌道で飛んでいく。
ところがまっすぐ飛んだせいで受けやすかったみたいで、センパイも同じだけの速度でスマッシュを打ち込んできた。
それをまた返す。スパン!という気持ちいい音をたてて再び返ってくる。

その動作をお互いに繰り返し、どっちかが落としても素早くサーブで戻した。
そうやって二人で全力ラリーを続けた。楽しすぎて昼メシを食べることすら忘れるくらいに。
バカみたいに本気になって、ガキみたいに夢中ではしゃいだ。


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