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「エーちゃーん、遊び行こー」
「部活あるっつってんだろ」
「うっわ、なにマジメに活動しちゃってんの?キモすぎ。つか名前貸しただけとか言ってなかった?なーなー、なーなーな、な〜ぁ〜」
「歌うなようるせーな」

オレが書道部に熱中してると愁がウザ絡みしてきた。
書道なんてガラでもないしからかわれるのがイヤで、友達連中には『由井のいる廃部寸前の部活に人数あわせで入部した』とかそれっぽい理由を話してあった。
なのにオレが足繁く通ってるもんだから、愁は面白半分の冷やかしで部室までついてきた。

センパイは入部希望者だと思って大喜びで愁のことを歓迎したけど、「こいつ違うんで」とオレのほうから断っておいた。
残念そうにしてたものの追い出すこともなく、愁を受け入れたセンパイ。どうせすぐ飽きるだろと思って、部室についてくる愁をオレも放っておいた。
愁がそんなんだから当然奏兎も来はじめて、気が付けばたまり場みたいにオレのツレが書道部に集まるようになった。

増える仲間に対してセンパイは、邪魔だと嫌がる様子もなく、気さくに話しかけてすぐに仲良くなってた。
それを見ていたらオレはまた悔しく思った。
人が増えればそれだけセンパイの興味はそっちに移って、オレに書道を教えてくれる時間が短く薄くなったように感じた。

それに相変わらず、センパイと目が合ってもあからさまにそらされる。
隣に並んだら一歩余計に距離を開けられるし、話してるとき首や腕をしきりにさすったりして落ち着かないって態度を取られる。
表面上は仲良く接してくれてるように見えるけど、そういうちょっとしたとこでオレは好かれてないんだなって思い知らされるから歯がゆい。
由井にも、愁にも奏兎にもそんなことしないのに――オレだけが。


「センパイ。女子と仲良くなったらどんなことしたいかって考えてます?」

部活後のバス待ち中に、そんなことを聞いてみた。
センパイは彼女作りに熱心で、オレと話が一番弾む話題がコレだ。
そんなに真剣なくせに行動に移せないセンパイのことをヘタレだと笑う気は、今はなかった。
だってそのままでいれば、いつまでもこの話題でセンパイと繋がっていられる。
オレの質問に、センパイはちょっと考えてから気持ち悪い照れ笑いをした。

「えー……うん、えー?」
「エロいこと以外で。てか付き合う前段階の話ですよ?」
「そっそそんなこと考えてないよ!?」

絶対考えてんじゃん。まあ、男として発想がそっち方面に行って当たり前なのは分かるけど。

「仮に気になる子ができたとして、その子に対してどう行動するかって、あらかじめ考えといたほうがいいんじゃないかと思うんですよね、センパイの場合」
「えーっと……そうだなあ……や、やっぱデートかな!」
「あれ、案外フツーですね」
「普通じゃダメなの!?」

童貞こじらせたオモシロ回答が来るかと思ってたから残念だ。

「や、別にいいんですけど。それってグループで?二人で?」
「そりゃ、できれば二人で……」
「無理ですよね」
「はい」

女子怖いとか言ってるセンパイが二人きりで出かけるなんて、ハードル高すぎなのが自分でも分かってるらしい。
客観視できるくせに治せないんだから面倒な人だ。

「そもそも俺、デートとかどういうとこ行けばいいか分かんない。女子が喜ぶのってどんなとこ?」
「それは相手によるでしょ。女に合わせてやればいいだけじゃないですか」
「えぇ、難しい……」
「どこがですか」

話の流れでいくらでも出てくるだろ。
「テレビで見たあそこ楽しそうだったーああいうとこ行ってみたーい」とか、「友達が彼氏と行ってすごい良かったって言ってたー」とか、要望拾うのくらい簡単じゃん。
……って思ったけど、そこまで会話を持っていくのすらセンパイにとっては難しいんだった。

「あー……まぁ、無難にカラオケとか?密室で二人きりになってもいいくらい好かれてたら、ですけど」
「えっ、密室とか言われると怖い無理」
「なんでセンパイが怖がるんですか。逆でしょ」
「そ、そっか、だよね。えっとじゃあ、開放感のあるとこ……ゆ、遊園地!?」
「カノジョじゃない子と行くの厳しいっすよ。だいぶ気ぃ遣いますし。たとえばヒール履いてきて足痛いもう歩けないって言い出したりするんで、途中から険悪になったりして」

センパイの表情が「めんどくさい」って言いたそうに渋くなった。
本当はそんな子ばっかりじゃないけど、この人に関してはそういう想定も必要だと思う。
けど、マイナス面を植えつけすぎな自分に気付いてちくりと胸が痛んだ。
そうやって面倒くさがってくれるならますます女子から遠のくかもっていう思惑が少しだけあった。
これじゃ協力してんのか邪魔してんのか分かんねえよ。

「……あーその、だったらためしに行ってみますか?女子が好きそうなとこ」
「寒河江くんと?」
「はい、下見的な感じで。ほら、一度行ったことある場所なら、あとで誘いやすくなるんじゃないですか?」
「おぉ!なるほど!さすが寒河江くん!」

この程度のことでいちいち褒めなくていいのに。そう思っても、センパイに褒められるたび浮かれてしまう。
そうしてその日以降、部活後にちょっと足を伸ばしてそういう場所に下見に行った。
もちろん都合が合うときのみ、その場所に行って雰囲気をたしかめるだけ。実際に遊ぶわけじゃない。小遣いもそんな多くないし。

まずはデート定番の巨大ショッピングモールを歩いたりした。制服のまま行けるし天気に左右されないし、季節ごとに装飾が変わるからハズレがない。
ついでに服屋に寄って、センパイに試着と服装のアドバイスもした。
いま上映中の映画をチェックすれば選択肢が広がる。近場の人気スイーツ店に並ぶ経験もした。
休みの日は待ち合わせて女子ウケする小綺麗なカラオケ店にも入ってみた。センパイは思った以上に歌が上手いことを知った。

どこに行っても楽しかった。
美容院に連れていったあのときみたいに、センパイと二人で出かけると時間が早く過ぎる。
センパイとはペースが合うっていうか、歩調が同じなんだって思った。
この人は男同士でつるむことに浸りきってるせいで、逆に女子とは合わないんだろう。

これじゃ彼女なんてまだまだずっと先のことだ。だけどそれでいいと思ってる。
彼女が出来たらあとを引かずに、なんて考えてた決意が揺らぐ。
焦る必要なんてない。彼女いなくてもあんたは十分楽しいでしょ。こうしてオレと遊んでればそれでいいじゃないですか、センパイ――そんな風に思う時間が、日に日に増えていった。


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