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またまた彼氏の家で風呂場を――。

「センパイ、もーちょっと足開いて……」
「えっ、マジ?駄目?」
「全然ダメです」

……借りてしまっている。寒河江くんと一緒に。
立ったまま正面から向き合う形になっている俺たちは、もちろん素っ裸。
エッチしたあと、余韻もそこそこに親が帰ってくる前にと二人でさっさと風呂場にかけこんだのだ。
お互いに汗や体液諸々をざっと流してから、寒河江くんが俺の尻に塗られたローションを流してくれるというのでお願いした。
俺の彼氏優しい!とデレデレしたのも一瞬で、いっそ自分でやったほうがよかったかったかもしれないと、今、とてつもなく後悔してる。

寒河江くんはシャワーを持って俺の背後に回し、ぬるめの湯を臀部の谷間にかけはじめた。
思った以上に水の勢いが良くて、敏感になっているソコがビクッとした。

「やっぱうしろ向いてくださいよ。やりにくいんすけど」
「そ、それはなんか、あれだし……」
「なんかあれって何ですか」

さあやるぞって雰囲気満々のベッドの上と、賢者タイム発動中のバスルームじゃ恥ずかしさの度合いが違うんだよ!そこは察して!

「じゃ、せめてもっとくっついてください」
「う、うん」

寒河江くんにびたっと抱きつく。湯に濡れた温かい胸が気持ちいい、そして股間のモノもぶつかり合うというエロハプニング。
素肌同士で抱き合うのって、エッチとはまた違った満足感があるなぁ。抱きしめながら頬ずりすると寒河江くんがご機嫌な様子で笑った。

「まあ、これはこれでいいですね」
「そうだね!……んっ」

シャワーの湯をかけながら少し屈んだ寒河江くんは、穴を指でそっとなぞった。
二、三回表面を洗ってから指が潜り込んでくる。そこはまだ何か挟まってる感じがするし、ちょっとムズムズする。

「や、やれば出来るもんだね、ああいうエッチ」
「あの……大丈夫でしたか?痛いとこあります?」
「大丈夫だよ。まあ大変だったかっていえばそうだけど、なんつーか……変な言い方かもだけど、すごい、楽しかったよ」

ただ気持ちいいっていうだけじゃなくて、デートしているときみたいなドキドキやワクワク感でいっぱいだった。
思い上がりかもしれないけれど、エッチしたことで彼と今までよりもっと分かり合えた気がする。困難をともに乗り越えた戦友的な意識とでも言おうか。
要約してそんなことを言うと、寒河江くんが困惑気味の微妙な顔つきになった。

「戦友って」
「あっ、いえ彼氏です彼氏!それくらい連帯感があったってこと!」
「言いたいことは分かりますけどね、なんとなく」
「だからさ、あの……またやろうよ」

話しながらも、寒河江くんの指は俺の中を慎重に探るようにして洗っている。
ローションはネットリぬるぬるだったから落ちるのに時間がかかるかと思ってたが、案外簡単に洗い流されていく。
彼の背中に回した手を腰まで下ろす。手持ち無沙汰なので俺も彼の体を撫でるようにして洗った。
寒河江くんの尻っていい形してるよなぁ。あっ、だから足が長く見えるのか?
そうやって素肌の手触りを楽しんでいたら、彼の唇が首筋に触れた。俺が首弱いって知っててわざとやってるな、寒河江くんめ。

「寒河江くん……」
「んー?」

とぼけるような声で生返事をした寒河江くんは、俺の唇にキスをした。そのままじゃれるようにして舌先を擦り合わせる。
キスの濡れた音がバスルームに反響する。こもった蒸気でくらくらした。

「……今します?」
「えっ、ローション洗っちゃったよね?無理だよね?」
「試してみましょうか」
「えぇぇ」

擦れ合う股間が、いつの間にやら熱を持っていることに気付いてしまった。



結果的に言うと風呂場でエッチはできなかった。
ローションを流しちゃったあとだったからめっちゃ痛くて無理でした。先っぽだけでギブアップ。
寒河江くんも本気でやろうとしたわけじゃないらしく、笑いながらすぐにやめてくれた。あと、あんまりのんびりしてると彼の親が帰ってきちゃうかもしれないから。

それはさておき、再び彼の部屋に戻った俺は、テーブルの上に乗せられたものと寒河江くんを交互に見た。

「……寒河江くんのうそつき」
「はい?」

シャワーのあと、二人して腹減ったねって話になった。今日は色々あったせいか、体が食べ物を欲している。
だから寒河江くんが「うちにあるものでよかったら」とテキパキ用意してくれたんだが、それがすごくおいしそうなんだよね。

「料理しないって言ってたのに……」
「してませんよ。あっためただけだし」

フライドチキン、イカリング、パン。
メニューを聞いただけならごくごくありふれてると思うだろう。しかしこれ、寒河江くんのバイト先であるレストランのシェフお手製なのである。
もう匂いからしてやばい。絶対おいしい。チキンの皮がパリパリの黄金色。
パンも、なんと具入り。短いフランスパンみたいな固めのパンにハムとチーズとオムレツがぎっしり挟んであってすごいボリューム!

「寒河江くんちっていつもこんななの?超羨ましい」
「いつもじゃないですよ。これはまかないっつか、現物支給っつーか」

言いながら紙ナプキンの上にフォークを乗せる寒河江くんの手つきが完全にウェイター。

「こーゆーの食べ飽きてるんで、オレは和食系のが好きですけど」
「えー、寒河江くん納豆嫌いじゃん」
「食べれますって。ただ、あえて今じゃない的な」

何故そんな頑なに納豆嫌いを認めないんだ。
腹が空きすぎて我慢できずさっそく食べ始めたわけだが、見た目と匂い同様、やっぱりおいしかった。イカがプリッとして柔らかくて感動した。

量はそう多くなかったから並べられた食べ物はあっという間に終わった。
腹が膨れて落ち着いたあとは、ペットボトルのお茶を飲みながらソファーでイチャイチャ。
手が触れると自然に指が絡んでるってのが、もうカップルだよね!

「センパイ、今日どうしますか?このまま泊まっちゃいます?」
「あー……」

明日は土曜だからそうするのもやぶさかではない。
それで思い出したけど、父さんに何の連絡もしてなかった。間食のつもりだったけどかなり食べごたえあったし、とりあえず夕飯はいらないことは確定だ。

「……やっぱ帰ろうかな」
「マジすか」
「うん。家に連絡できないからさ」
「ケータイ、充電切れか何かですか?」

寒河江くんが軽く首を傾げた。
ああそういえば、今ケータイ持ってないって彼には言ってないんだった。

「由井くんから聞いてない?俺、この前ケータイ壊しちゃって」
「は?」
「あの……床に落として壊れたっていうか」

寒河江くんとの電話のあと投げて壊しましたとは本人には言えず、しどろもどろに濁した。
かなり驚いたような顔をする寒河江くん。そしてサッと表情が曇る。

「じゃあどうやって連絡するんですか」
「まあ、そのうちなんとかするよ。ケータイなくても全然不便じゃなかったし」
「不便ですよ。センパイの声聞きたいときはどうするんですか。や、つか、オレがこういうこと言う資格ないですけど……」
「うーん、学校で会うまで我慢?それか家の電話?ほぼ確実に父さんが出るけど」

俺からの電話を散々無視したくせに!とか言う気はないし仕返しなんて気もないのだが、単純にないものは仕方ないのである。
ここ数日の精神的な不安定さが解消されたせいか、連絡手段のひとつがなくなったくらいで揺るがない俺。ところが寒河江くんのほうがやたらと動揺している。

「じゃ、オレのスマホ貸すんで泊まってってください」
「えー?」
「そんで明日はデートしましょう」
「うん?寒河江くんバイトないの?」
「休みます」
「それ大丈夫なの?」
「他の人にシフト代わってもらうし」

繋いだ指を解いた寒河江くんは俺の肩を抱いた。
至近距離で見つめ合っていたら何故か笑いがこみ上げてきて、同時に吹き出し、そしてキス。
俺も明日は予定があったけれど、今は彼氏の誘いを優先しよう。
時にはこういうわがままを通したっていいよな。だって一緒の時間を過ごしたいし、話し足りないんだ。

まだ彼の親は帰って来ない。だからもう少しだけ、寒河江くんを独り占め。


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