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恋人繋ぎのままエレベーターで階を上がって家に入った。
中は暗くて、人の気配もなく静かだった。
寒河江くんの部屋は玄関のすぐ近くだ。室内に足を踏み入れドアが閉まった瞬間に、どちらともなく抱き合った。
二人分のカバンがドサッと床に落ちる。
今、俺たちの邪魔をするものは何もない。ようやく二人きりになれたんだと思うとますます腕に力が入った。
勢い余ってよろけ、ドアに俺の背中が触れた途端、寒河江くんの唇が俺の唇を掠めた。

「センパイ……」
「ん……っ」

啄ばむみたいにして寒河江くんが俺の唇を食む。俺も同じようにキスをした。
まだ明かりもついていない部屋にキスの音がやけに響く。舌が絡むと、音は一層濡れたものになった。
少し強引に俺をドアに押し付け、寒河江くんのキスが首筋に降りていく。
数回唇が触れただけで痺れるような感覚が広がり、膝から力が抜けた。しかし崩れ落ちそうになる足を踏んばって、俺は寒河江くんの胸を軽く押し返した。

「さ、寒河江く、ん……あの、ちょっと」
「……すいません、ダメでしたか」
「そうじゃなくてさ。俺、その……ゴム持ってなくて」

すごく恥ずかしいけれど自己申告は必要だ。今日になっていきなりエッチの雰囲気になるとは思ってなかったから、そもそも買ってすらいない。
部室での悶着のなかで尻に入れるとかそんな話をしたばかりだし行為そのものに抵抗はないが、さすがにそのままやる勇気はない。
すると寒河江くんは、俺の肩に額を乗せて小さく笑いだした。

「だから、か、買いに行く?えっと、近くにコンビニとかある?」
「……つーか別に、今日そこまでするつもりなかったんですけど」
「へっ、そうなの!?て、てっきりそういう流れかなーって……うわーごめん!今の忘れて!」

鼻息荒く先走っちゃった自分が恥ずかしくてソワソワしていたら、肩から顔を上げた寒河江くんが笑いを噛み殺しながら口を開いた。

「オレ、持ってますよ」
「え……ほんとに?」
「はい」
「いつ買ったの?」
「……まあ、センパイと付き合ってから一応そういうの期待してっつーか……いやあんまそこは深く聞かないでください」

てことは結構前から用意してたってこと?そうか、寒河江くんも挿入エッチを視野に入れてたんだ。
避けられたり別れを切り出されたことはすごく悲しかったし、わだかまりがないわけじゃない。でも、それ以上に寒河江くんが好きな気持ちが勝ってる。
この気持ちを体ごとぶつけたい。そして彼からの気持ちをもっと確認したい。俺はもう、そうしないと気が済まないんだ。

「……やっていいんですか」
「うん、やってみようよ。あ……でも、上手くできなかったらごめんね」
「オレだってそんな上手くできる自信ないですけど。まあ、慣れていけばいいでしょ」

これから、と寒河江くんが優しく囁いたから、俺は彼の肩に手を回して唇を重ねた。
上手くできないことは何度もやってみればいい。あんなにぎこちなくて照れくさかったキスも、今はこんなに慣れた。
いくら失敗してもいいんだ。寒河江くんは文句を言いながらもちゃんと受け止めて、放り出さず次に繋げてくれるって知ってるから。

だから寒河江くん――俺に、「初めて」を教えてよ。

デスクの上にあるスタンドライトだけをつけたあと、俺たちはベッドに座り込みながらキスを繰り返した。
寒河江くんのネクタイを緩め、シャツのボタンをはずして胸元を撫でる。彼の肌は熱くて、少し湿っていた。その間に彼も俺の制服を脱がしにかかってる。
脱がし合いって楽しい。自分で脱ぐよりラブラブ感が高まる気がする。

寒河江くんが俺のシャツの中に手を差し入れ、肩を両側から掴んだ。その手がうしろへと滑ると肩からシャツが落ちた。
心臓がありえないくらいドクドクいってる。
まだはじめたばかりなのにすごく興奮して、息が乱れっぱなしだ。

「センパイ……」
「ぉわっ」

インナーまで脱がされ上半身裸になったそのとき、急に体重をかけられてベッドに沈んだ。シーツから寒河江くんの匂いが強く香る。
見上げた寒河江くんは欲情したような顔になっていた。
そんな目で見ないでほしい。自分が欲望の対象としてベッドの上で晒されてるかと思うと身が竦むというか、恥ずかしくてたまらない。それが好きな子相手なら尚更だ。
俺もこんな目で寒河江くんを見ていたとしたら非常に申し訳ない。いたたまれなくて、つい顔をそらした。

「センパイ、こっち向いて」
「うぅ……うん……」

熱くなってる頬に手が添えられ、そっと上向かされる。そうして下唇を挟むキス。
唇が首元に滑ると快感のゾクゾクが背筋を走り抜けた。

「ん、あ……あっ……!」

優しい愛撫は徐々に激しくなっていった。
舌が這ったと思ったら何度も口付けられ、首から胸元にかけてしつこいくらいの愛撫。
乳首にも唇が下り、舌で弾かれたり吸ったりされる。そのたびにビクッと肩や腰が盛大に跳ねた。下半身に重たいような疼きが集中していく。

刺激に対する弱さがだんだん増してる気がするんだけど、大丈夫かな、俺……。
すっかり腰砕けになっていると、寒河江くんが耳元にキスをしながら優しく囁いてきた。

「……すいません。ちょっと痕ついちゃったかも」
「えっ?う、うん?そうなんだ……」

愛撫にのぼせてアトとかなんとかそこまで気が回らない俺はおざなりに返事をした。
寒河江くんの手がもどかしげにベルトを緩め、ズボンのファスナーを下ろした。ジ、という硬質な音が耳に届くと、ぼんやりしていた意識が少しだけクリアになる。
トランクスの上から勃起を撫でられた瞬間、俺は彼の肩を押し止めた。

「あっ、さ、寒河江くん!すすストップ、一旦ストップ……!」
「ん?」

こういう雰囲気のときに中断なんかしてムードの欠片もない俺だが、寒河江くんは気分を害した様子もなく俺を覗き込んできた。

「どうしました?やっぱやめます?」
「ち、違うよ!あのさ、えっと、俺もやりたいんだけど……」
「は?」
「俺も……寒河江くんの、舐めたりしてみたい」

そう言うと、寒河江くんが一瞬眉を跳ねさせた。
だけど俺の意図を汲んでくれたのか、ちょっと笑って上からどいてくれた。


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