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夏休みの残りはなんだかんだと過ぎ去っていった。寒河江くんとはなかなか予定が合わなくて、公園デートを一回しただけに終わった。
そして二学期がはじまり、我が書道部は文化祭に向けて本格的に活動を始めた。
パフォーマンスの練習をしたり、早い子は展示用の字を提出したり。俺も夏休み中に仕上げた一作品は提出した。

「ほらここ、曲がってるじゃん?だからさ、紙の端に合わせて書いてみたらどう?こう――」

寒河江くんのうしろに回って、筆を持つ彼の手を包み込むようにして握った。
縦の棒がどうしても左に開いてしまう癖があるらしい寒河江くん。口で説明するより書いたほうが早いので、彼の手を握ったままにんべんを書いてみせた。

「――と、こんな感じ。やってみて」
「はい」

頷いた寒河江くんが同じように書いてみせる。
ううむ、なかなか癖ってのは直せないもんだな。それでも最初の頃を思えば目覚ましい進歩といえるだろう。

「部長〜スーザン部長〜!」
「なにー?」
「ちょ見て見て、これ!」
「おーすごい!いいねぇ。これ提出?」
「うぃーす」

そう言ったのは中丸くんである。新入部員組のなかでも一番上達したのは彼だ。もともと字が整っていて、筆に慣れたらめきめきと頭角を現した。
四文字熟語で全体のバランスもいい。なにより勢いがある。

「うん、じゃあしばらくそのままにして、墨乾かしてね」
「はーい。……エーちゃんまだやってんの?マジお前って字ぃきったねーよな」
「うるせーよ。つか上手くなってるっつーの、ほら」
「俺が教えてやろっかぁ?」
「やだし」

しっしっと中丸くんを追い払う仕草をする寒河江くん。そうだそうだ、寒河江くんを教えるのは俺だぞう。
いやホント、せめて引退までは俺に面倒を見させてほしい。寒河江くんと校内で会う機会なんて部活くらいしかないんだから。
そういえば寒河江くんの普段の学校生活ってあんまり知らないな。一学年違うだけで驚くほど接点がない。
俺も俺で休み時間はいつも古屋とか他の友達といるし、特に寒河江くんの姿を探すようなこともしなかった。
そんなわけで、部活終了後、由井くんと駅で別れてバス待ちしているときに寒河江くんに聞いてみた。

「あのさ寒河江くん」
「はい?」
「寒河江くんって昼休み何してる?」
「え?まあフツーに……愁たちと食ったりダラダラしてますけど」

寒河江くんは、あのチャラ友達のなかでも同じクラスでもある神林くんが一番仲がいいらしい。
他の子は友達の友達繋がりとかなんとかでクラスをまたいで仲良くなり、だいたいあのメンバーでよく遊ぶのだとか。書道部に来る前は全員帰宅部だったそうだから、類友集まりとでもいおうか。
そして由井くんはそれとは別の付き合いのようだ。由井くん自身もクラスで他の友達がいて、寒河江くんと常に二人でいるわけじゃないっぽい。

「ふーん、そうなんだ」
「あ、もしかして昼一緒に過ごしたいとかですか?」

ずばり言い当てられてどきりとした。
古屋は週の半分くらいまゆちゃんと一緒に昼休みを過ごしてるし、そういう校内デート的な考えがよぎったのは否めない。

「ま、まあそれも考えたけど……俺も友達と食べてるしなーって思って」
「言われてみれば、部活以外オレら会わないっすよね」
「だよね」

きらきらした青春を送りたいと思ってはいたが、お互いの生活行動を考えると合わせるのが難しいということが二学期になってから判明した。
まず登下校。下校はだいたいこうしてできるけれど、友達と遊びに行ってしまったり時々バイトが入っていたりなにかと忙しい寒河江くん。
登校のほうは、朝はギリギリまで寝ていたいという寒河江くんと、早めに家を出たい俺とでバスの時間が合わない。
次に勉強。学年が違うということで一緒にやることがない。次に委員会だがそれも違う。
……とまあ、考えれば考えるほど合わない。
とはいえ、いつでも一緒のラブカップル!というのも、俺と寒河江くんとでは違うような気がした。
一分一秒でも離れていたくないっていうのじゃなくて、会う時間は頻繁でなくても顔を合わせたら居心地がいい関係とでもいうか。うまく言えないけれど、友達の延長みたいな、そんな感じ。

「ガッコーで会う時間作ります?」
「そうだなぁ……できたらいいけど、俺、学校ではケータイの電源落としてるから連絡できないし。会えたらラッキーくらいでいいんじゃない?」
「まあそんなとこですよね。じゃ、せめて朝だけでも合わせましょうか?」
「どっちに?」
「……センパイがオレに」
「登校ギリギリのバスとか遅刻しそうで怖いんだけど……」
「…………オレが早起きします。できればですけど……」
「い、いいよそんな。無理しなくて」

寒河江くんも恋愛第一ってわけじゃないみたいだ。優先はしてくれるけど、それ以外は本当に今まで通り。
電話やメールだってそんなに多くない。けれど、寒河江くんとはそうやってマイペースに気取らない付き合いができるところがいい。
ただ、俺と寒河江くんが部室に一番乗りの日は、誰も来ないうちにこっそりキスをする。これだけでもうマジ幸せ。


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