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脳内で恋人との別れをシミュレーションして切なくなりながら三人で歩く帰り道。
寒河江くんは俺を空気扱いして由井くんと喋り続けている。話してる内容を聞いてて思ったけれど、由井くんと寒河江くんは同じクラスなのかな。
話に入れない俺はぼんやり空を見てたんだが、気を利かせたのかなんなのか、由井くんが寒河江くんの振った話題を時々俺に振ってくるという微妙なトライアングル完成。
由井くん、そんな気遣いは俺のほうが惨めになるだけなんだぞ。でもありがとう、その優しさがあったかい。

「えっと、そういえば寒河江くんは何通?駅に行くってことは電車通?」

さすがにずっとハブは寂しいから、俺も会話に参加したくて世間話を振ってみた。ところが寒河江くんがすっごい迷惑そうな顔をした。く、くじけないんだからね!
彼は無視するつもりっぽかったけど、由井くんに小突かれて渋々って感じに口を開いた。

「……バスですけど」
「へぇ、そうなんだ。ウチの学校で多いのは三番か六番だよね。由井くんは三番だっけ。もしかして二人とも同じバス?」
「五番」

五番乗り場。あれ、それ俺が使ってるバス停と同じ。

「五番なんだ!俺と同じだね!」
「……えっ……」
「あっ……」

ああしまった!濁しておけば良かったのに何故正直に言った?俺のばかばか!
だってそんなこと言っちゃったら、必然的に一緒のバスに乗らなきゃいけないってことじゃないか。寒河江くんも「うわー余計なこと聞いちゃった」って顔してる。マジごめん。
微妙に気まずい俺と寒河江くんの心境をよそに、由井くんと別れる駅前に到着してしまった。
着く前に、俺ちょっと用事があるからゴニョゴニョとか言って離脱しとけばよかった。つくづく俺の馬鹿。

「またな由井」
「寒河江、明日現国のプリント忘れるなよ」
「はーい前向きに善処しまーす」
「次に先生に怒られても、おれもう知らないから」
「うわ、つめてー。そんなこと言わないでさ!」

仲良しな二人のやりとりを見て、羨ましくなった俺も由井くんに手を振った。

「由井くん由井くん!また明日!」
「……さようなら」

寒河江くんと元気に話していた由井くんは、言葉少なにうつむいて、ぺこりと小さく俺に向かって頭を下げた。
そうやって頑なに俺の顔を見ないのは何故なんだ。俺の目を見ると石になる呪いでもかかってんの?
小走りに去っていった由井くんを見送って、残された俺と寒河江くん。
わーお、気まずい!

「え、えと、じゃあ寒河江くんも、さよーなら」
「は?センパイもこっちでしょ」
「うん、そうなんだけど……。えーっと、俺は一本あとのバスに乗るし」
「なんで?」

なんでもなにも、俺と寒河江くんは恋敵じゃないか。俺の脳内で!

「あ、ごめん、やっぱ乗る。うん……はは……」

もちろんそんな痛い妄想は言えないから、寒河江くんと五番乗り場に行くことになった。
でも寒河江くん、俺のこと嫌いじゃないのかな。別々のバスに乗ったほうが絶対いいのに。
そう思ってたら彼には彼なりの思惑があったんだと、バスに乗ったあと知った。やっぱり一本遅らせればよかった。

俺と寒河江くんはバス待ち列の前後に並んでいたから、その流れでバスに乗ってからも隣に並び立ってつり革につかまった。
バスが動き出したあともすごく気まずくて無言で他人のフリしていたら、なんと寒河江くんのほうから話しかけてきた。

「……センパイってさぁ、由井のこと好きなんすか?」
「すっ!?もっもちろん普通に好きですよ!後輩だし!数少ない大事な部員だし!」

いきなり直球すぎてびっくりした!
ちょっと噛んじゃったけど一応本当のことを言った。脳内恋人ごっこはしてたけど、恋愛の意味で好きではないんだって、これでも。

「ふーん……?」
「な、なに?何かおかしい?」
「別に。ならいいっす」

寒河江くんから飛んできた鋭い視線が突き刺さる。まさか俺の下心がばれたというのか。まさかそんな。

「メールとか、どういうカンジで送ってたんですか」
「え?うーんと、そんな変なことは……あっ、なんだったら見る?ほんと、フツーのだから!」
「見せて」

カバンのポケットからケータイを取り出して送信済みメールフォルダを開く。
画面を寒河江くんに向かって突き出すと、彼はまじまじとケータイを見つめた。
当たり障りない内容だし、送る回数だって一日に二、三回くらいでしつこくしてないし、見られてもやましいことはない。

「……フツーじゃん」
「でしょ!?だから言ったじゃんフツーだって」
「じゃあなんであいつ、あんな嬉しそうにしてたわけ?」
「はい?」

嬉しそう?誰が?まさか由井くんが?


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