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古屋家からの帰りということもあって、俺と寒河江くんは駅の改札前で待ち合わせをした。
俺のほうが先に着いたから柱のそばで待っていたら、やがて寒河江くんが姿を見せた。
俺と出かけるときよりも更にチャラめの装いだ。つけてるアクセサリーが多いせいかな。

「寒河江くん、こっちこっちー」

手を振ると、寒河江くんは耳に詰めていたイヤホンをはずして俺のところまで来た。そして得意げな笑顔で、写真で見たお菓子の大箱……二つと、ゆるキャラのぬいぐるみを俺の目の前に突き出してきた。

「はいセンパイ、コレどーぞ」
「どうしたのこれ?」
「今日、愁たちにボウリング付き合わされたんで、そこのゲーセンで取ってきたんですよ。ほら、この前ゲットできなかったじゃないですか」

やっぱりリベンジだったのか。
それにしても大漁だな!寒河江くん、ものすごい満足げなホクホク顔してるし。
差し出された戦利品を受け取って両手で抱え込んだ。

「あ、ありがと。すごいね。得意って言ってたのホントだったんだ」
「まあ今日行ったとこ全体的に台甘かったんで。全部持ち帰んの面倒だったからあいつらに分けちゃったくらいだし」
「みんなはどうしたの?」
「まだ遊ぶらしいからオレだけ帰ってきました」
「そうなんだ。……あれ、ていうかこれみんなもらっちゃっていいの?」
「はい。オレ、取るのが好きなだけなんで」

話しながら駅を出て、俺たちはそのまま川沿いの堤防へと足を向けた。
ちょうど日が暮れる時間だ。日差しが弱くなったのを見計らって犬の散歩をする人や、ランニングの人が次々とすれ違ってゆく。

「センパイは今日何してました?」
「友達の家で勉強。つってもほとんど遊んでたけどね。寒河江くんは夏休みの宿題やった?」
「あー、由井とやりました。もうほぼ終わってますよ」
「マジで?いいなぁ」
「二年と三年じゃ難易度違うでしょ。そっちは講習とかもあるんだし」
「やー、それにしたって終わってるって聞くと羨ましい」

カナカナと鳴く虫の音がどこからか聞こえる。虫の音に耳を澄ませるように、俺たちはしばらく黙って薄明るい土手沿いをゆっくりと歩いた。

「……正直、安心しました」
「え?」
「センパイからメール来たとき、いいとかダメとかじゃなくて『会いたい』だったから」

ああ、そういえばそうやって返事をしたんだっけ。それがどうして安心に繋がるのかと考えていたら、寒河江くんがぴたりと足を止めた。
つられて俺も歩くのをやめ、彼を見上げた。

「……センパイがこの前のことでまだ怒ってるかもって思ってたんで、嬉しかったです」
「お、怒ってないって言ったじゃん」
「でも態度が冷たいっつかおかしかったし……あの、すいませんでした。やっぱああいうの、急ぎすぎましたか」

胸の辺りから熱がじわじわと迫り上がった。
道端でこんな話をするのはどうかと思ったけれど、俺も誤解は今のうちに解いておきたかった。

「た、たしかに早いかなーとは思ったけど……。でもさ、俺だってそういうことするかもって分かってて寒河江くんの家に行ったんだし」
「…………」
「あとその、恥ずかしながら俺ってああいうの初めてで色々びっくりしてさ。あのときは賢者状態っていうか、ちょっとオーバーフローしてただけなんだよ」
「…………」
「寒河江くんのことイヤになったわけじゃないから、ほんとに」

首の後ろにムズムズを感じて、照れ臭さをごまかすようにまた歩き出すと寒河江くんもついてきた。彼はすぐに俺の隣に並び、小さく溜め息を吐いた。

「……うん、分かりました」
「ご、ごめんね」
「なんでセンパイが謝るんですか」
「初心者の俺に付き合うのって面倒じゃないかなぁと思いまして」
「そんなことないですよ、全然」

寒河江くんが軽く笑う。揶揄や皮肉のない、優しい響きの笑い声だ。
ゲームの景品で両手が塞がっているのが口惜しい。今このとき、一瞬でもいいから寒河江くんと手を繋ぎたかった。

「あ、そうだ。あとセンパイに――」

言いながらポケットを探った寒河江くんだったが、そのジャストのタイミングで着信音が鳴った。彼はすぐにスマホを取り出し、耳に押し当てた。

「――なに?……は?ヤダ。……うん?うん、あー駅んとこ……いまセンパイと一緒で……え?」

俺の話題が出るってことは書道部繋がりの誰かかなぁと思っていたら、寒河江くんはスマホを一度離して苦笑した。

「すいません。電話、由井なんですけど、これからメシ行かないかって。センパイも行きます?」
「えっ由井くん?俺、邪魔じゃない?」
「や、センパイいるって言ったらむしろ連れて来いって騒いでるんですけど」
「うーん、まあ邪魔じゃないなら……」

寒河江くんが由井くんにOKの返事をしてる間に、俺は父さんに夕飯はいらない旨の連絡をした。とはいえ今日は古屋と食べるかもって一応言ってあったから、向こうもそのつもりでいたとは思うが。

由井くんは書道教室の帰りらしい。彼が今いるのは電車で数駅先の場所だということで、待ち合わせのため再び駅に戻った。
彼氏と二人で過ごす時間が終わってしまったのは残念だけれど、残り少ない部活動期間を考えれば、こういう機会に可愛い後輩の姿を見るのもいいかと思った。


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