45


やがてシェーバーの振動音が途切れた。
カタンと小さく聞こえたのはシェーバーを置いた音かな?

「……寒河江くん?終わった?」
「まだです。ちょっとそのまま」

まだだと言うから目をつむっていたら、また彼の手が触れた。今度は頬に。
優しい手の温かさにホッと息を吐いたそのとき、唇に柔らかい感触がした。おまけにチュッという音がたつ。
まさかの不意打ちに驚いて目を開けたけれど、すぐにもう一度閉じた。そうしたら続けて唇が重なった。
もしかして、今の眉カットは俺の緊張を解すためにしてくれたことなのかな。レベル1彼氏である俺のための気回しだと思うと申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
だからせめて、観覧車のときと同じように寒河江くんの腰に手を回した。寒河江くんとするキスが好きだっていう意思表示に。

「ん……」

周りが静かだからキスをするたびに、チュ、チュ、という音がよく聞こえる。恥ずかしいけど、そのぶんドキドキが増した。
頬に添えられた寒河江くんの手は、いつしか俺の肩に回っていた。

「センパイ……」
「……ぅ?」
「くち開けて」

掠れた囁き声で言われて、俺は何も考えずにそれに従った。そして唇を緩めたその隙間にぬるっとした感触が這った。

「……!?」
「……噛まないでくださいね」

寒河江くんの柔らかい舌が歯列を割って優しく入り込んでくる。
こ、これは噂に聞くベロちゅーというやつでは?
噛まないでと言われたからには大人しく口を開けるしかない。そうすることで彼の舌先が俺の舌に触れた。

「んんっ……」

今までのキスよりもっと深く唇が重なる。舌を擦り合わせると、背筋がぞくぞくとしてヘンな気分になってきた。
息をするのが難しくて自然と呼吸が荒くなっていく。それは寒河江くんも同じみたいだった。

「ふ……っぅ、んっ、ん、ぁ」
「ん、……ん」

時々角度を変えたりしながら舌を舐めるキスを続けた。洋画とかでよく見るような激しく舌を絡めるようなのを想像してたけど、俺と寒河江くんのはゆっくり舐め合うだけだ。
ディープキスってこんな感じでいいのかな。何も言われないってことは、たぶんいいんだと思うけど……。

しばらくそうやって夢中でキスしてたけど、どちらともなく唇は離れた。
寒河江くんにギュッと抱き寄せられた。
息が上がったせいで頭の中がぼんやりしてる。惚けたまま彼の肩に頬をすり寄せたらボディソープのいい匂いが強く香った。
密着した体は筋張って硬くて、やっぱ同じ男だなぁって感じがするのに頼れる安心感がある。なによりあったかくて気持ちがいい。俺も彼の背に腕を回して抱きしめた。
そういえば、こうやって正面から抱き合うのって初めてだったりする?

黙ったまま抱き合っていたんだが、そのうちに寒河江くんの手がするすると俺の背中を撫ではじめた。
くすぐったくて逃げるようにして体を捩ったのに、グイッと引き戻された。そうしてその手は服の裾をめくり、じかに俺の肌を撫でさすった。

「あ、あの……寒河江、くん?」
「……はい?」
「えっと……」

戸惑いながら体を離したら、耳の下あたりに濡れた唇が這った。そのまま唇は首筋を辿りながら何度もキスを繰り返す。ぞわぞわして変な声が小さく漏れた。
寒河江くんの両手が服の中に入ってきて、背中を撫でながら裾をまくられた。まるで脱がそうとするみたいに――。

「さっ寒河江くん!まま待って待ってちょっと待った!」
「なんで?」
「なんでって……なんではこっちの台詞ですけど!?」

混乱しつつも上着を脱がそうとする寒河江くんの手を押し止めた。

「さ、さっき、そのうち親帰ってくるって言ってたよね!?まずいじゃんそういうの……!」
「ウソです」
「へっ?」
「親、今日帰って来ないんですよ。父さんは出張でいないし、母さん夜勤なんで帰ってくんの日付変わってからです」

な、なんだと!?寒河江くんのうそつき!!
じとりと恨みがましい目を向けたら彼は決まり悪そうに苦笑した。でも俺の体は抱きしめたままだ。

「だってセンパイ、さっき死にそーなくらい緊張してたじゃないですか。親帰って来ないって言ったら逃げちゃいそうだったし……つか、オレとこういうのはイヤですか」
「い、イヤっていうか……」

俯いてもごもごと言葉を濁した。
正直なところ、嫌なのかどうなのか自分でも判断がつかない。

「……ご、ごめん、よく分かんなくて……」
「したいって思えない?」
「し、したいしたくないより、なんか、寒河江くんとのそういうのが想像できないっていうか……」
「じゃあやってみるしかないですね」

そりゃあここまでやっといて寸止めなんてしたら男が廃る!――とは思う。
それに興味がないわけじゃない。俺だって普通にエッチなことには反応するし探究心は尽きない。ただ、相手が同性なことが不安なだけで。


prev / next

←back


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -