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いきなり増えた部員用にプリントを追加でコピーするのとあわせて入部届を出すために、顧問の大沢先生に会いに職員室へと急遽行くはめになった。
ついでに寒河江くんも「手伝います」と言ってついてきた。
こんなお遣い程度のこと、手伝ってもらうことなんて特にない。でも断ってもついてくるのが分かってるから好きにさせた。
用事をさっさと終えて部室に戻る途中、寒河江くんが隣をダラダラ歩きながら溜め息を吐いた。

「センパイさぁ……あいつらのこと入部なんてさせなくてよかったのに」
「はは、寒河江くん、由井くんとおんなじようなこと言ってるぅ」
「はい?」
「前に由井くんがね、寒河江くんのこと何で入部許可しちゃったのーって言ってたんだよ」
「マジで?」
「うん」

寒河江くんが決まり悪そうななんとも言えない複雑な表情を見せた。
由井くんは『最悪』とも言ってたけど、賢明な俺はそこまで言わずにおいた。

「入部の動機なんてなんでもいいんだよ。部活だもん、楽しくワイワイやれたほうがいいじゃん」
「や、あいつらゼッテー書道やる気ないですって」
「そう?一人、すんごく字が綺麗な子がいたからうまくすれば伸びるかもよ。えーっと……そうそう、中丸くん」
「……センパイが教えるんですか?」
「うーん、俺は寒河江くんで手一杯だから小磯くんあたりに任せようかな」
「そうしてください」

満足そうな笑みを浮かべながら頷く寒河江くん。対して俺は頬を引きつらせながら腕をさすった。

――実を言うと、俺は寒河江くんと二人で話すことに妙な落ち着かなさを感じていた。
一週間くらい書道を休み、その末にじいちゃんの家で書いたあの日以来のことだ。
他の人がいれば気にならないんだけど、こうしてマンツーマンで会話していると、時々、どうしてか腕が痒くなったり首の後ろあたりがムズムズする。

あの日どうしても書きたかった字――『永』。
何故あれにしようと思ったのか不可解でならない。初心に立ち返るためだったんだろう、きっとそうだ。
そうだと言い聞かせながらも寒河江くんに対する居心地の悪さを感じている。

「……あのさ、寒河江くん合宿はどうすんの?来月の九、十だけど、バイト入ってる?」
「大丈夫、行けますよ。てか、長期休みは何か予定入れとかないと鬼のようにシフト組まれるんで絶対行きます」
「そ、そっか。分かった」
「あー……予定で思い出したんですけど」

もう少しで部室につくというところで寒河江くんが足を止めた。つられて俺の歩みも止まる。

「この前言ってたアレのこと」
「アレ?あっ!あー……アレね、アレ!」
「来月十八日なら空いてるんで、その日どうですか」

つい濁しちゃったけど、アレというのは寒河江くんと一緒に出かけようという約束のことだ。
相変わらずモテるにはどうすればいいかという相談をしていて、その話の流れで『女子が喜びそうなデートスポット』の話題になったのだ。
急に女子をデートに誘うことになったとき、一度行ったことのある場所なら誘いやすいだろうということで実際に体験することに。
寒河江くん曰く経験不足だという俺を慮っての行動だ。
何回か彼と出かけた。小奇麗なカラオケ店とか、話題のスイーツが食べられる場所とか、運動公園でバドミントンとか。
それで、今度は複合アミューズメント施設、つまり遊園地にでも行ってみないかという話をしていたのだ。

「お……おー、十八日ね。いいよ了解」
「場所はこの前言ってたそこで。時間はあとで決めるんでいいですか?」
「うん……」

寒河江くんはそういう遊ぶ場所にすごく詳しくて、ほとんど連れまわされてるだけの俺だったけれど……困ったことに普通に楽しかった。
そう、とても困るのだ。このまま彼女ができなくてもいいんじゃないかという考えが頭の隅によぎるから。
そんな、寒河江くんの厚意を裏切るようなことは言えない。それに言ってしまったら寒河江くんとの繋がりがぷっつり切れてしまいそうで、俺は、今日も口を閉じた。


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