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仁科からメールが届いた頃、俺は龍哉の部屋で話し込んでいた。
メール内容を一応確認して、それには返信せずにスマホをポケットに仕舞う。今は返事をできるような気分じゃなかった。

「……で、椎名はいつ帰ってくるって?」
「そろそろ帰って来ると思うけど」

ピタリ賞で俺をデート権に指名した椎名。今日椎名は買い物で朝から外出中ということで、夕飯後、龍哉の部屋で帰りを待っていた。いつもより若干部屋が片付いている。
日帰りらしいから夕方には来るかと思ったが、結局寮の門が閉まるギリギリに帰って来た。
ショップの大きめの袋を持った椎名は、相変わらず大人びていて落ち着いた雰囲気を醸し出していた。

「ただいま……ってあれ、志賀来てたんだ?」
「お前を待ってたんだよ」
「……ああ、もしかして体育祭の賞品の話?」
「そのとーり。ピタリ賞おめでとー」
「ありがとう」

椎名はにっこり笑って、俺が差し出した学食食べ放題カードを受け取った。若林にしたように同じ説明を聞かせると、もう一度「ありがとう」と律儀に礼を言う。

「そんで、副賞のデート権だけど。ご指名あざーすっつーかなんで俺?」
「えぇ?生徒会役員に興味ないし、選ぶなら友達がいいかなって思っただけ。変に気遣いたくないし」
「そういうときは図書カードにすりゃよかったのに」
「あ、そうかなるほど。誰か選ばなきゃいけないんだとばっかり。それにほら、予想が当たるなんて本気で思ってなかったし」

手をポンと叩いて、抜けている自分を省み照れたように笑う椎名。

「今からでも変更しようか?」
「いやいいよ。あんまり志賀と話す機会ないし、せっかくだからデート権使う。そういうの面倒?」
「俺は別にいーけどさ。んで、いつデートする?」

ペットボトルの茶を飲みながら聞くと、椎名は適当に袋を床に置いて冷蔵庫から炭酸水を取り出した。ペットボトルのキャップをはずすとこれまた適当にテーブルの上に転がす。
そうやって物をすぐその辺に置くから部屋が散らかるんですよ椎名さん!

「いつでもいいよ。志賀の暇なときで」
「んじゃー明日は?ちょうど休みだし」
「はは、急だね?もちろんいいよ」

そつのない返事を寄越しつつ散らかし魔な椎名はイメージのギャップに落差がありすぎる。

「どっか行く?」
「うーん、今日ちょうど出かけてきたばっかりだしなぁ」
「じゃ、とりあえず俺の部屋に来いよ。漫画も返したいし。やることないなら滝からゲームでも借りてくるわ」

そう言うと、龍哉の視線が飛んできた。自分も混ぜろと言いたげな視線をアイコンタクトで却下する。
とりあえず伝えることは伝えたし、そろそろ自分の部屋に戻ってメールの返事でもしないとな。答えは決まってるけど。

「明日は椎名の都合のいいときに来いよ。待ってっから」
「ああ、わかった。……志賀、それ飲み終わったんなら捨てておこうか?」
「んー、まだちょっとだけ残ってるからいいよ」

ほんの数ミリ中身の残ったペットボトルを持って立ち上がる。去り際に龍哉の背を一回叩いてから部屋を出た。

龍哉の部屋と俺の部屋とは階がひとつ違う。階段を降りて行くと、俺の部屋の前に人が立っているのが見えた。

「……萱野?」
「久しぶり」

それは本当に久しぶりに会う、仁科様親衛隊長の姿だった。


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