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「でも今日はなんか言いたくて来たんだろ?話してみろよ」
「……う、ん……」

ごくり、とやけに大きな音が三春の喉から聞こえる。つられて俺も緊張気味に姿勢を正した。

「お、おれと……、おともだちに、なってくだ、さい……っ」
「…………え?あ、うん、いいけど」
「ず、図々しくて、ごめんなさい……って、えっ!いいの!?」

パッと三春が顔を上げて涙に濡れた瞳を向けてきた。その潤んだ空色の瞳を真正面から見据えてしまってドキリとした。思わず視線を逸らす。
同時になんだそんなことかと拍子抜けするとともに、この年になって「友達になろうよ」なんてはっきり言われる気恥ずかしさもあって脱力した。
そういうのってほら、口に出さなくても話をしたり一緒に過ごすうちになんとなく実感するもんじゃねーの?
照れ隠しに痒くもないのにうなじをがりがりと掻いた。

「なんならアド交換する?」
「あっ……置い、てきた……です」
「なんだケータイ持ってきてねーのかよ。じゃああとでいいや。てかさ、どうして今になってそれ言おうと思ったわけ?」
「き、騎馬戦のときに」

ああ、あのときちょっと接触があったからそれきっかけで?……行動に移す契機の基準がわかんねーな。
変装してリミッターが外れてたとはいえ千歳とは一緒にいられて俺は遠巻きに見てるだけってのも理解ができない。

「三春さ、執行部のヤツらとか、千歳と仲良くしてたのはどーすんの?そもそもどうしてヤツらと仲良くしようと思ったのかが理解できねーんだけど」

そんなおどおどした状態で今までみたいに接することができるんだろうか。ちょっとした好奇心で聞いてみたのだが、三春はしょんぼりと表情を暗くした。

「あの、転校した初日……副会長が来てくれて、すごい人だった、からお話してみたくて……」
「あ、そーなんだ……へぇ……たしかにすごい姿だけど」
「それで他のみんなとお話して、みたら思ってた感じと違くて……楽しい人たちだったから、えと、もっと仲良くなりたくて」

それでハイテンションのまま『ともだち100人できるかな!』をリアルに実行してたわけか。執行部を「楽しい人たち」の一言で括れる三春も十分変人だと思うが。

「千歳は?なんかあいつのこと友達いない認定してたって聞いたけど」
「あっ千歳……くんは、その……リヒトくんの親友、だし、友達ならおれでもいいかなと思って……」
「……えーっと、三春の中では『親友』と『普通の友達』は別物ってこと?」
「ちっ違うの?」

逆に聞かれた。親友とは別に、普通の友達になってくれって意味での発言だったってことなのか?やばい、頭がこんがらがってきた。
そのへんは認識の違いだろうから訂正する気にもならないが、その末の友達いない認定だとしたら千歳もなかなか可哀想だ。

「千歳くんは……同じクラスになったし、隣だったから……お友達になりたく、て」
「へー席隣だったんだ。そういやお前って外部入学んときはG組だったのに、編入してAになったんだよな」
「う、うん……ともだちいないし、ベルギーで、勉強しか、しなかったから……」

既視感のある台詞につい若林に目をやってしまう。すると若林もなんとも言い難い変な表情をしていた。
むしろ若林と三春って気が合うんじゃないか。……いやダメだ。無表情で漫画を読んでる若林の傍で話をしたいけど話しかけられなくて結局黙り込む三春の図しか思い浮かばない。

「そんで友達作ろうとして、ずいぶん濃いメンツ集めたよな」
「そ、そう、かなぁ……」
「だって鬼頭まで巻き込んでたって話じゃん」
「え?……あ、要一くんは、向こうから話、してくれて……」

そう言って少し嬉しそうにする三春。
……ん?何か引っかかるな。あの一匹狼気取ってる情報屋の鬼頭のほうが三春に声をかけたって?
なんとなく裏がありそうな気がする。
もやもやとしたものを感じてつい難しい顔で考え込んでしまうと、三春がおそるおそる俺を窺ってきた。

「……リヒトくん?」
「あ、ああ……。あのさ、変なこと聞いてもいい?」
「なに?」
「三春って、仁科と……生徒会会計のヤツと何か、あったりする?」

仁科の名前を出すと、少し引いていた三春の頬の赤みがまた増した。
あーしまった、聞かなきゃよかったか。いや、むしろここで仁科との関係を聞けば俺の気持ちにも整理がつくかもしれない。そんな諦めとも未練たらしさともつかないような曖昧な心境で三春の口から出てくる言葉を待った。

「あの、その、仁科様……は、おれ、仁科様の親衛隊に入ってて……」
「え?」

そう言ってまた忙しなく視線を彷徨わせる三春。まさか、仁科の親衛隊員だったって?

「……一年のとき、親衛隊に入ったらお部屋に、遊びに行けるって知ったから」
「おい三春それって」

仁科が自室に親衛隊員を招くのは完全にセックス目的だ。全員がそれ目当ての隊員ってわけじゃないだろうが、ちょっとヤツの好みに引っかかればすぐに食われる。

「う、うん。あの……そういう……ヘンな意味だって知ったのは、あとで……」
「……俺、去年仁科と同室だったんだよ。三春は見たことなかったと思うけど?」
「いい行ってないよっ。あの……同室ってのは知ってて……でもそういうの知らなくて、お部屋に行けば、リヒトくんとお話、できると思って入っただ、けだし……」
「なんでお前ってそんな遠まわしなの」

そこまでいくと俺を珍獣扱いしてるんじゃないかって思う。部屋くらいいくらでも来りゃいいのに。まあそれが出来ないのが三春の性格なんだろうが。


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