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――体育祭の勝敗は、一位・とり、二位・うさぎ、三位・くま、四位・ねこ、五位・きつね、六位・いぬだった。
騎馬戦で頑張った成果が反映されたのかどうか、きつねは五位という位置におさまった。有栖川兄はこの結果が不満だったらしくふんわり系美少年の仮面を脱ぎ捨てて非常に荒れていた。しかしそんな乱暴……野生的な姿に惚れ込んだ舎弟……親衛隊員が増えたとのことだ。
余談だが、俺の頬のらくがき――例の三本ヒゲのアレだ――はやっぱり油性ペンだったようで洗って多少薄くはなったけど、全然落ちなくて泣きそうになった。





そして次の日、執行部と風紀と監査総出で開票を行った。これがまあ骨が折れるのなんの。
体育祭前の投票締め切り直後に箱を開け、複数投票がないか用紙に書かれた学籍番号を照合してすでにデータ管理してある。無番号、無記名は当然無効として弾いてはあるが、半数以上の生徒分を調べなくちゃいけない。
生徒会選出選挙みたいに一人の名前を正の字で加点していくわけじゃない。ピタリ賞とニアピン賞をいちいち調べていかなくちゃならないのだ。

夜まで続いた開票結果、結局ピタリ賞は9人。ニアピン賞は34人だった。――参加人数に対して正解は意外と少なかったな。
話し合った末、副賞のデート権の指名被りは三人までOK。仁科なんかは十人くらい平気だよとかふざけたことを言ってたが、ルールとして三人に限定した。
あとは指名内容を見てすり合わせするってことになった。図書カード希望の生徒もいるだろうし、そうモメないだろうというのが全員の見解だった。
結果を貼り出したあと、当選の該当生徒には希望の人を第三希望まで書いて提出してもらうことにした。もちろんなければ図書カードで。

翌日の放課後には、当選者はすでにお目当てを決めていたようで全員の希望が揃った。
その結果、図書カード希望は二人だけだった。
デート権の一番人気は風紀委員長で、次点が会長。驚異のドM率。もうどこを突っ込めばいいかわからない。
そして意外や意外、俺が第三希望に結構入ってた。このどうでもいい数合わせ的な感じ……いやいいんだけど。
複雑だけど第一希望で指名してくれた生徒が二人ほどいたので彼らを優先。一人は知らないヤツだったけど、一人は――椎名だった。しかもピタリ賞当ててるし。

ちなみにこのデート権、親衛隊などの介入は一切禁止。全員同意の上の正式な賞品だから、恨むんなら予想が当たらなかった自分の先見の明を恨めよということだ。
デート内容や細かい日程は各人にお任せ。朝の八時から翌朝八時まででもいいし、きっちり24時間使わないで数時間だけでもいいし。
こんなおふざけに付き合わなきゃいけない俺らにも何か見返りがほしいもんだ。
デート権の話し合いで生徒会室に再び全員集合している中で、俺は小さく主張してみた。

「……あのー、俺らには報酬的なものはないんですかね、会長」
「何を言う志賀。生徒を楽しませるのが我々トップの役割だろう」
「監査はトップでもなんでもないんですけど」
「つべこべ言うな」
「えぇー……」
「あっ、だったら志賀ちゃんには俺とのデート権プレゼントしちゃう!ねっ、そうしよ?」

仁科が嬉々として口を挟んできて、思わず渋い顔をしてしまった。正直あんまり顔を合わせたくないがそういうわけにもいかないから何でもないフリしてるってのに。

「いらねー」
「えーなんでぇ?」

唇を尖らせてブーブー文句を言う仁科に付き合ってる時間はない。指名のすり合わせをしていくと、まあなんとかうまく納まった。
執行部と風紀のトップは三人指名全員埋まり、そのほか監査の俺らも残りを埋め、他の風紀にもちらほら指名があったからパズルのピースのように空きを埋めていった。
通達はそれぞれ個人で行うってことで決定して話し合いは終了し、それらの作業が終わる頃には外は真っ暗になっていた。

寮に帰るとリビングの電気は消えていたが、すぐに買い物袋を提げた若林が帰ってきた。膨れあがった袋から長ネギが飛び出しているところを見ると、どうやら食材の買出しに行ってたらしい。

「おかえり」
「あ、志賀君帰ってたんだ。お疲れ」
「あーもーマジで疲れたよ。これからのこと考えると気が重いわ」
「大変だね」
「あ、若林コレ。ピタリ賞おめでとー」

きれいにラッピングされた薄い小箱と小さい封筒を渡す。これは乙女風紀の面々が開票後からせっせとラッピングしてくれたものだ。水色の包装紙と銀色リボンがやたら可愛い。
若林は栄えあるピタリ賞に当選していた。図書カード希望だったけど。

「まさか当たるとは思ってなかった」
「すげーじゃん。一緒に学食行こうぜ」
「うん。学食うまいから楽しみ」

楽しみと言いながら無表情の中にも喜色が見て取れる若林。
学食は有名シェフだのなんだの監修のメニューがあって美味いかわりにちょっとお値段が張る。三食学食だと結構な額になるが、ピタリ賞の正賞は一ヶ月食べ放題だというから魅力的だ。
――ただし食べ放題のシステムは少し面倒くさい。
急遽用意した食べ放題のカードはペラペラだけど生徒の氏名とともに生徒会長の印が押してありラミネート加工がしてある。他人に譲渡、貸与は不可。偽造はもっと不可。
不正をなくすため、メニュー注文時に食べ放題のカードと学生証を同時に提出することになっている。
うちの学食は食券制だから、カウンターに直接注文をしないといけないのもちょっと面倒。でもそれだけの手間で食べ放題になるのもありがたいかも知れない。

それらの説明を若林にして、俺の役目は終わり。若林はデート権を使わないし、同室の俺が預かってきたってわけだ。

「食べ放題カードは使い始めた日から一ヶ月有効だから」
「わかった、ありがと。もう明日から使おうかな」
「うん、いんじゃね。あのさ、先にシャワー浴びていい?俺、疲れすぎて寝ちゃいそうなんだわ」
「いいよ」

明日は土曜だ、久々にゆっくり寝坊できる。中間テストは終わってるし体育祭も済んだ。色々あったから何も考えずに過ごしたい。
風呂から出たあと冷蔵庫からミネラルウォーターを取るついでにリビングスペースに顔を出した。

「若林ー、風呂空いたから……え?」

ソファーに座った若林が俺の方を向いた。
そしてそれに続いて、いつの間に来ていたのか、カツラと眼鏡のない三春が俺を見上げたのだった。


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