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騎馬戦開始!の合図で長浜先輩、刈り上げ先輩、アゴ髭先輩が鬨の声を上げながら勢いをつけてぐんと走り出した。
周囲の熱気に反するように俺の腰はすでに引けている。

「うわ待って待って怖いちょー怖い!!」
「てんめー志賀逃げんな!オラァ戦え!」

長浜先輩が物騒な叱咤激励してくるけどマジで無理!
だって見てご覧なさい。目ぇ血走った野郎共が群れてカチューシャを取り合ってるんですよ!?異様でそして怖い。
俺はもう自らきつね耳を脱いで敵に差し出したくなった。

「ムリムリムリ!ホラ見て勢いがやばいですって!」

先輩の肩を掴んで揺さぶるが、そんなことで揺らいだりしない頼もしき騎馬隊長。
しかし群れに突っ込んで行く前に、俺たちがグズグズしてるのを見た敵軍にチョロいと判断されたらしく真っ先に狙われた。
これですぐにカチューシャ取られれば終われるな……と思ったけど、長浜パイセンが怖いので真面目に参戦する。

いって引っ掻かれた!おい誰だ俺のシャツを引っ張るのは!脱げる脱げる!尻尾は引っ張んな!それは取っても得点になんねーよ!?

ところが優秀な俺軍の馬が敵の馬を容赦なく蹴り倒すので、可哀想な相手はどんどん崩れていった。
去年は観戦の方だったから知らなかったけど、そういうのアリなんだ騎馬戦って……いや聞いたことねぇよそんな野蛮なルール。
そんで馬と馬の争いの末に崩れかかる敵のカチューシャをひょいと掻っ攫う俺、漁夫の利。
でも上に乗ってる俺だって決してラクしてるわけじゃない。
長浜先輩が敵を蹴り倒すたびにグラグラ揺れるから、必死にしがみついてないと俺の方が落ちて失格になる。

「せせせ先輩!もっと平和的にやりませんか!?俺落ちるし!!」
「ああ〜!?聞ーこえねぇなぁ!!振り落とされんなよ志賀ァァァ!!」

ぎゃははとゲスい笑い方をして敵陣に突っ込んでいく先輩。あ、ダメだこの人完全イっちゃってる。
俺ら以外も激しい取っ組み合いをしてるから、そんな中に入っていけば当然揉まれに揉まれるわけで。
しかし長浜パイセンがなまじ強いだけに揺るがない。ヘッドは伊達じゃねぇ。もうおうち帰りたい。

そうして人がだんだん減ってきたその頃、まだ生き残ってた千歳と目が合った。
ヤツが爽やかな笑顔を向けてきたけど、長年の付き合いの勘で直感した。あれは良からぬことを考えてる顔だ。

「りーひと〜!!」

名指しすんなそして笑顔でこっち来んな!
上に乗っている三春が「え?」という意外そうな顔をしている。しかし千歳は止まらない。長浜先輩もこっちに向かってくる敵の姿を認めて獰猛に笑う。
千歳と馬を組んでいる二人も水泳部で見かけたことがある顔だ。どっちも二年だと思うが名前は出てこない。くまチームだからG組の生徒かな。両方ともいい体つきをしている。
なんかもうそんなヤツらばっかりだからむしろ馬達が怖い。ものすごく逃げたいけど、無情にも取っ組み合いになってしまった。

騎手そっちのけで千歳と先輩が同時に足払いをかける。
同程度の勢いでキックがぶつかり合って、蹴りの体勢を保ったまま二人がピタリと動きを止めた。

「……陸のわりに元気いーじゃねぇか、水泳部」
「煙草ばっか吸ってるからカラダ鈍ってんじゃないすかぁ?陸上部部長さん」
「あぁン!?泥くせードジョウがナメた口利くなよ!」
「亀並に遅い陸上部がよく吠えますねぇ」

先輩のこめかみに青筋が浮いたのが見えた。挑発すんなバカ千歳!
そして俺のような善良な一般生徒をお前らの水陸抗争に巻き込まないでくださいお願い!
さらにそんな舌戦を繰り広げている最中も二人は蹴り合いをやめない。そのたびにやたらと揺れるから長浜先輩にしがみついた。うう、ちょー酔いそう。

「……んでお前は早く落ちろ、理仁。いつまでもそんなヤツの上に乗ってんじゃねーよ」
「お、俺だって好きで乗ってるわけじゃありません……」

千歳が笑いながら機嫌の悪そうな低い声で言うから思わず敬語になってしまった。
三春も同じく振り落とされないよう千歳の背中に抱きついてるんだが、その様が弟をおんぶする兄みたいに見える。
つーかこのままじゃ埒が明かなくない?むしろ俺いらなくない?
同じことを三春も思ったのか、千歳の背からぐっと顔を上げてこっちに体を乗り出してきた。

「おれがやるっ!!」
「わっ、バカ三春!?」

急に三春が前のめりになったせいで千歳がバランスを崩した。
ギリギリのところで踏ん張るが、にゅっと伸ばされてきた三春の手を俺が反射的に振り払うと、その弾みで相手は体勢を崩して結局騎馬全体が盛大に崩れ落ちた。

「うわぁぁ!!」
「ひゃぁぁぁ!!?」

千歳以下馬の叫び声と三春の甲高い悲鳴がその場に響く。崩れたところからぼふんと砂煙が湧き上がった。
三春がすごい勢いで頭から落ちたのがスローモーションのように目に映り、どっと冷や汗をかいた。



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