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考えてもみてほしい。
俺は、実は運動が超出来るとかそういうスーパーポテンシャルは秘めていない。身体能力の測定値だって全国平均を逸脱しない数値が並んでいる、つまり普通。
だからそんな俺がいようといまいとチーム貢献にさしたる差異はないっていう結論は容易に導き出される。
有栖川兄が俺に罰だとか言ったのは、絶対にチーム最下位によるイライラの嫌がらせだ。
まあ午前中たっぷりサボって仁科と健全とも言い難いことをしてたのは、良くないとは思うけど。それを知ってるらしい有栖川兄が『おこ!』なのも理解できるが。

――でもだからって、これはねーだろ!

俺は今、長浜パイセンをリーダーとした馬の上に乗ってます。
……俺はね、体重はヒョロい方だけど身長はそれなりにあるわけですよ。だから当初馬役を割り当てられてたんだよ。
ところがなんということでしょう、長浜先輩他二人の勇猛果敢な猛者に俺が軽々担がれていますビフォーアフター。

いや待て待て、その猛者の馬二人、なんか見たことあるなと思ったらいつかキスしたことのある、刈り上げ先輩と顎ヒゲ先輩じゃねーの?あの風紀の眉毛先輩と三人ワンセットの。
か、感動の再会……全然嬉しくない。俺にイイ笑顔を向けてこないでください。

猛者たちは上半身裸で気合十分。長浜先輩の背中に『有栖川諒命』っていうペイントがでかでかと描かれてるんだけど、見なかったことにしよう。
ちなみに俺は断固として脱ぎません。引き締まった筋肉をしてらっしゃる馬達の上で貧相な体は晒したくない。

去年の騎馬戦は普通にハチマキを取り合う競技だったんだが、今年はカチューシャを取り合うファンシー競技にメタモルフォーゼしたようだ。
俺の頭にはきつね耳のカチューシャ、ケツにはピンで留めた(有栖川兄が使っていた)フッサフサのきつね尻尾。
ついでに頬に三本髭の落書きまでされた。黒いペンにマッ……なんとかって書いてあったけどあれは油性ペンじゃないよな違うと言ってくれ!

くまチームの陣営で千歳が呼吸困難を起こすほど笑ってる。
クッソ、見るな!俺を見るな!そして龍哉と若林は写真撮るな!体育祭は携帯・スマホ持ち込み禁止令を出すべきだ!

グラウンドをぐるりと見渡すと、キュートなカチューシャを頭に乗せた男子高校生の群れが目に入った。
非常に殺気立ってる。よく見たらほとんど運動部だし。

「先輩……俺、ガチで役立たずっすよ」
「てめーはぜってー落とさねぇから大船に乗った気で死んでこい」
「俺死ぬの!?大船に乗りながら死んじゃうの!?」

俺が乗った船は客船じゃなくて戦艦だったようだ。
マジで場違いすぎやしませんかね?
――いや、俺よりもっと場違いなヤツいたわ。遠目でも目立つ真っ黒なもじゃもじゃ。三春だ。
小さいのが千歳を先頭に据えた馬に、よいしょと乗り上がった。
俺みたいに走る距離が短いから騎馬戦にも割り当てられたクチだろうか、それとも立候補したんだろうか……後者な気がすんな、なんとなく。
三春はなにやら元気に大声を出している。混戦になったら埋もれちゃうんじゃねーの?

騎馬が揃うと、馬役の先頭のヤツらが足を踏み鳴らし始めた。まるで馬が蹄を蹴るように。
それは徐々に観戦席の生徒にも広がり、拍子を揃えて、ダン、ダン、ダン、ダン、と地面を踏んだ。地鳴りのような足踏みがグラウンド全体を包む。
つまり、ボルテージは最高潮ってこと。

「――ではこれより、騎馬戦を開始します」

グラウンドにそのアナウンスが出た瞬間、野郎共の雄叫びが響き渡った。


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