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リレーのあと、渡辺1がダルそうにしながら俺のところにやって来た。

「りっちゃーん」
「おー渡辺。なんだよお前、陸上部の癖に三位ってえらい低くね?」
「うっせ。オレあれだし、走るほうじゃねーし」
「え、そうなんだ」
「そー、飛ぶヤツ」

薬で一発キメましたみたいな顔して飛ぶとか言わないでくれ。棒高跳びのほうでいいんだよな?
ちょっと考えてた隙に渡辺1が顔を近づけてきたからさっと避けた。

「ちょおりっちゃんちゅーは?」
「しねーよ」
「ええ〜マジでか!ちょーショック……」

がっくりと肩を落とす渡辺1。
本気で仁科に従わなきゃいけないって思ってるわけじゃないけど、どうしてか呪縛のようにヤツの言葉が思い出される。
しかし渡辺1は気を取り直したように顔を上げて、俺を観覧席の端の方まで引っ張った。

「え、なに?どーした?」
「あのよーりっちゃん。ちょっと謝っとくわ」
「は?」

渡辺の言っていることが理解できず首を傾げる。
すると渡辺がまだらな金髪をかき上げながら顔を歪めた。

「オレ止めらんねーから」
「は、いや、何を?」
「あとで分かるって」
「いや今言えよ」
「言ったらたぶんりっちゃん逃げるし」

逃げたくなることなの!?

「え、逆に気になるんだけど……」
「だからワリーって」
「お前なんかやらかしたの?」
「オレじゃねーよ?むしろやらかしたのはお前だし」
「俺!?ちょっと待て脅すなよ!わけ分かんなくて怖い!」

もしかしてスターターピストルのことか!?未だ返してないからなんか騒動になってる……とか?
――俺の予想はまあ当たらずも遠からずだったんだが、このとき体育祭なんてブッチすればよかった。あとで心底そう思った。


そんな少し先の未来のことなんて当然知る由もない俺は、渡辺と関係ない世間話をちょっとしてから観覧席に戻った。
プログラムは順調に進んでいて、敵チームに妨害ありの棒引きとか長距離走があった。
この長距離走――800メートル走は仁科が参加すると言ってたけど、他の大将も全員参加だった。要するに大将同士の徒競走。

これマジで長距離?って疑問に思うくらい全員ペース落とさないで飛ばすわ足速いわでそれはもう大盛り上がりだった。
なるほど、短い距離じゃあっという間に終わっちゃうもんな。

各親衛隊諸君も気合の入った応援をしてた。
どこから持ち込んだのかブブゼラとかメガホンとか超うるせえ。

俺は……恥ずかしい話仁科ばっかり見てた。おい一体どこの乙女だよ……。
仁科の走るフォームがやたらと綺麗で惚れ惚れした。方々から仁科様ぁというハートマーク付きの声援が飛んでいて、危うく俺も仁科様って声出すところだったわ。
いやいやもう好きなのやめるって決めた直後じゃねーか!でも目が追っちゃうんだからしょうがないだろ!と一人で逆ギレしてるうちに雌雄は決した。

仁科と会長が同ゴール一位。有栖川兄が三位。後藤が四位。有栖川弟が五位。副会長が六位。興奮しすぎた失神者多数。
その盛り上がりがすごすぎて一時休憩を挟んだほどだった。

そして休憩後は障害物競走の出番。
龍哉の表情が暗い。だって立候補者がいなくて押し付けられた形になってたやつだからね。そりゃそんな顔にもなるわ。

「龍哉、一位取れよ」
「プレッシャーやめてくんない?」

なんだと、俺の激励をそんな迷惑そうに言わなくても。
休憩中にグラウンドに網だの平均台だのコスプレ衣装だのダンボールだのはすでに設置されていて、本当に障害物!って感じの猥雑さだった。
障害物競走も学年ごとにスタートすることになってる。それをまあ指差して笑いながら見るわけだ。
でも律儀な龍哉はちゃんと一位取ったわけで。早着替え用のコスプレ衣装がスーツで、高校生とは思えないほどぴったりと良く似合ってた。
もうそのまま出勤して営業に出たら成績トップになれそうなくらいのリーマンっぷりだったよ。
その用意されたコスプレ衣装も様々で、全身着ぐるみとかセーラー服とかあったから、龍哉は当たりだったかもしれない。制服とそんな変わんないし。

プログラムが進んで、午前中は全然だったけど体育祭をそれなりに楽しんで――やってきました大トリの騎馬戦。
怪我人多数、でも最大の盛り上がりを見せる競技。

俺は、本当に逃げればよかったと思った。




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