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スウェーデンリレーは、100、200、300、400メートルを順に走っていくリレーだ。
学年ごとに六人同時に走ることになっている。
一年走のあと、俺たち二年の出番がやってきた。
軽くストレッチをしてスタートラインに立つ。すると視界の端になにやらちょろちょろしたものが入った。
なんだろうと思ってふと隣を見ると、そこには真っ黒なステンレスたわしみたいなもじゃもじゃがあった。
ぎょっとして二度見したらそれはたしかに人間で――つまり、三春翼だった。

俺よりもだいぶ背が低くてそわそわしてて落ち着きがない。その様はなんだかハムスターとかデグーとかそういう小動物を思い起こさせる。
顔半分を隠すような分厚いビン底メガネはちゃんと前見えるの?とか余計な心配をかき立てられる代物。

えぇーここで?このタイミングで出会っちゃう?

俺は複雑な気持ちで三春をじろじろと見てしまった。つうかマジでちっせーな。
そのもじゃもじゃ頭は何?間近で見たら笑い取るとか以前にびっくりだわ。なんか合成写真みたいに周囲の風景から浮いてるんだよ。

そんなことを考えながら、正直ちょっとした感慨深いものを感じてた。
いや、あんだけ近寄るなだの関わるなだの言われてた張本人がすぐ隣にいるなんて、珍獣でも見てるような気分だったんだよね。
俺の視線を感じたのかどうか、三春がふと俺のほうを見上げてきた。
どきりとしながらその視線を受け止めると、三春は二カッと元気に笑った。

「お互いがんばろー!!よろしくなっ!!」
「あ、うん……」

拡声器もないのにあたりに響く大声でそう言ったきり、三春はなにやら俯いて小さく独り言を言っていた。
あれ、意外とフツー?
色々噂されてるほどには傍若無人じゃなさそうで、肩透かしを食らった。
奇しくも俺自身が言った通り、俺は三春のお眼鏡に叶うようなヤツじゃなかったってことか。

これ以上絡まれても困るだけだしいいんだけど、無駄に警戒してた自分が恥ずかしくもある。
そうか、この見た目だし声は大きいしで周りがあることないこと騒ぎ立てただけなんだな?きっとそうだ。

「位置について――」

スタートの合図が聞こえてきて、俺はハッとしてバトンを握り直した。
その数秒あとにパン!とピストルの発砲音が鳴る。動揺したせいか出足が遅れてしまった。
てか、三春はえーな!ちっさいのがぐんぐん前を走っていく。俺もそれに引っ張られるように足を動かした。

100メートルは短いようで長い。前を行くもじゃもじゃ頭を追いかけるようにして走る。
でも長いようで短い距離はあっという間に終わりを迎えた。あとほんのちょっとというところで三春に追いつけなかったのが悔しい。
次の走者にバトンを渡してレーンを抜ける。
三春の事が気になってきょろきょろとあたりを見回すと、小さいのは勢い余ってトラックの先の方まで走り抜けていた。
くまチームの第二走者が困惑しながら三春を――いや渡されるはずだったバトンを追っている。それに合わせて笑い声や怒号が飛び交う。

苦笑しながらトラックの端からリレーの行方を見てると、抜きつ抜かれつ、きつねチームはなかなかいい勝負をしていた。
三春はまだ走っている。……やっぱ色々な意味で破天荒なヤツだな……。
そして最終走者がスタートラインに並んだのを見て、俺は興味を引かれた。

いぬチームに渡辺1がいて、ねこチームに鬼頭がいる。おいそこのヤンキー共、二人並んでメンチの切り合いはやめなさい。
つーか渡辺1、陸上部じゃん。ずりー。
うさぎチームはD組の(先生じゃない方の)清水で、くまチームは滝だ。とりチームのヤツは名前は知らないがやたらイケメン君である。
えらく派手な面子だな。きつねチームの……つかうちのクラスの地味メン宮本君が埋もれてしまう。

最終のバトンはまずきつねチームが一番だった。おおいいぞ!頑張れ宮本!
――と、思ったのも束の間、あっさり抜かれましたよね。全員に。おぉい頑張れよ宮本!
鬼頭がまた足はえーのなんの。不良なんだから手抜けよマジで。なに真面目に行事に参加してんだよ。
で、結果はねこが一位、くまが二位、いぬが三位、とりが四位、うさぎが五位で、きつねが……それ以上言わせんな。



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