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応援合戦のあとは800メートルリレーだった。それをトリとして、午前のプログラムは終了だ。
チームの点数は順位で決まる。午前中の競技の点数が電光掲示板に映し出されたが、今のところの暫定1位はとりチームだった。
そしてきつねチームは6位。

うおおマジか、最下位じゃねーか……。
ムカデ競争が1位って聞いてたから期待しちまったじゃねーか。



昼休み、今日は食堂から全校生徒に弁当が配られた。
おにぎりやから揚げが入った弁当を持って、グラウンドや教室などで生徒は各々好きな場所で食べる。
千歳が若林を捕まえてきて、俺たちはグラウンド端の木陰で弁当を広げた。

「んで千歳はどーだったのよ、パンとか食い競争。たしか午前だったんだよな」
「あ?ヨユーで1位だったけど」
「マジか。そこは負けとけよバカ」
「お前やる気ないくせに勝ち負けにはこだわるのかよ」
「当たり前だろーが。こう……人の心理的に」

他チームが勝っているのを聞くと面白くない。そう言うと千歳からチョップが飛んできた。

「だったら午前中参加しとけよな」
「うーん……」

なんとも返答しがたくて曖昧に唸ると龍哉がすぐに話題転換をしてくれた。

「そういや午後イチの競技ってなんだっけ」
「玉入れじゃなかった?」

若林が無表情でウィンナーを齧りながら言った。
玉入れか……アレだよな、『手が滑って』敵側に玉がぶつかって最終的に玉のぶつけ合いになる危険競技だよな。
おかしいな、中等部のときはそんな飛び交う玉を避ける競技じゃなかったはずだ。籠に玉を入れた数を競うもので……。
いやいいや深く考えるのはやめよう。
そんな調子で綱引きも大縄跳びも恐ろしい剣幕なのだが、参加しなくて良かったかもしれない。よく見たら俺以外の三人ともすでに怪我してるし。

「サボりてぇ……」
「お前それ庶務兄に言ってみ。殺されるよ?」
「すいません真面目にやります」

龍哉の忠告にぶるっと震えた。有栖川兄とは委員会で多少なりとも交流があるだけになかなか現実的な脅し文句だった。
午前中はたいして動いてもなかったせいでそんなに腹は空いてなかったが、弁当をきれいに平らげて一息ついた。
空を見上げるとよく晴れていて暑いくらいだ。
目を閉じると仁科の顔が浮かんだ。言葉や表情、ひとつひとつ思い出しては反芻する。

仁科の言っていることややっていることがちぐはぐで、俺には何も理解できなかった。
誰ともキスするなとか言ったり、俺が友達って言った途端安心したり、三春のことを独占するようなことを匂わせたり――。
仁科にとって俺はやっぱり『友達』で、なのにやたらと俺のプライベートに首を突っ込んできて行動を制限するようなことをして。
一体あいつは何を知ってるんだろう、何を隠してるんだろう。何も分からない。あいつが何を考えてるのか。

ぽん、と突然頭に何かが乗った。
慌てて目を開けるとすぐ近くに龍哉の穏やかな顔があった。子供にするみたいに頭を撫でられていて無性に恥ずかしくなった。

「な、なんだよ」
「何でも?」

龍哉は俺の変化に敏感だ。俺が落ちていたのをきっと察知したんだろう。筒抜けすぎてマジで恥ずかしい。
若林がいなかったらちゅーくらいしてたかもしれない。いや、もうしないって約束したんだっけ。
……そもそも、俺が仁科の言うことなんて聞く義理なんかないんじゃないか?

「あーもー!」

突然叫び出した俺を見て千歳と若林が驚いたようにぽかんとした。
考えても埒が明かねー。もう悩むのはよそう。
仁科が何を考えてようと俺にはどうしようもない。もう知るのさえ面倒くさくなってきた。
親衛隊の制裁だのなんだの、何かあったとしたらその時はその時。こんなぐちゃぐちゃ思い悩むのは性に合わねーんだよ!

たぶん三春が色々な鍵を握ってるんだろう。仁科も関わってると知った今、それも知りたくなくなった。
もう全部諦めたらいいんだよ。仁科を好きなことも、イジメのことなんかも。俺は適当にゆるくて楽しい学園生活を卒業するまで送りたいんだから。

――そう思ってた矢先に、厄介事は向こうの方からやってくるもので。

昼休憩が終わり殺人級玉入れのあと、スウェーデンリレーの出番がやってきた。
第一走者の俺がスタートラインに立ったそのとき。




隣に三春翼が並んだ。




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