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ミネ君に監査室の鍵を持ってきてもらう頃には放置しすぎた俺のちんこもしょんぼりとして大人しくなっていた。
しっかりと施錠したあと、すっかりサボってしまった体育祭へと戻る。

体育祭はまだ応援合戦の最中で、観戦していた龍哉と千歳の隣に立つと、ちょうど俺らきつねチームの大将がグラウンドの壇上に登ったところだった。
そのほかの役員たちもずらりと並んでいてなかなかの迫力だ。執行部が揃ってるところなんてものすごく久しぶりに見た気がする。

応援団ってマジでチームの耳のカチューシャつけてるんだな。学ラン姿の強面も可愛らしい生徒ももちろん大将もみんな。
とりチームは耳ないのにどーすんだろって思ってたら、鶏のトサカを付けてて間抜けで思わず笑ってしまった。
そしてノリノリできつね耳とふっさふさしたきつねのしっぽまで装備してる我らが大将、有栖川兄のほう、諒がマイクを両手で持って小首を傾げた。

「みんなぁ〜はりきってる〜?」

ウォォォォォ!という歓声と「せーのっ、諒様〜!」という親衛隊員たちの野太い声援が重なる。
しかし有栖川兄は可愛らしい顔をきょとんとさせて耳に手を当てた。子供向けのショーとかでよくあるお約束ってヤツだ。

「あれぇー全然聞こえないよぉ?もっと大きな声で!みーんなー、はりきってるー!?」

さっき以上の歓声が上がるが有栖川兄は可愛らしい顔を一瞬で般若に変えた。
有栖川兄がすうっと思いっきり息を吸う。

「テメーら日和ってんじゃねーぞゴラァ!気合入れろ!!」

ドスの利いた声がマイクを通し拡声器からグラウンドにビリビリと響き渡る。
その迫力にビビッて思わず俺も歓声を送った。あの紅顔の美少年のどこからどうやってデスボイスばりの低音が出てくるのか学園七不思議。
俺の近くにいたクラスメイトの寺尾が「すてき……」という一言と共に失神した。お前諒様親衛隊員でしたか、知らなかったよ。
保健委員が寺尾を介抱している間に、有栖川兄は口汚くきつねチームに喝を入れてくださった。
きつねがこの調子じゃ他チームの応援はどんなんだったんだろう。
最初に各チームごとのパフォーマンスがあって、そのあと大将からの激励演説って流れだったはずだから、次は――。

「気合の入る演説、ありがとうございました。では最後にうさぎチームお願いします」

放送委員のアナウンスが入る。うさぎチームと聞いてどきりとした。
仁科だ。たぶん、俺とのごたごたで遅くなったから最後に回されたんだろう。
壇上に立つと淡い色の髪が日に照らされて金色に見えた。眩しくて直視できない。思わず俯いて拳を握った。

「えーっとぉ……」

キィン、というハウリングのあとマイク越しの艶っぽい声がグラウンドに響いた。
さっきまであんなに近かったのに今は遠い。これが俺と仁科の距離なんだ、と思わされる。

「誰が勝っても負けても、みんな頑張ろーね?」

ありきたりで無難なセリフ。すごく仁科らしい。
うっとりした溜息とキャァァという陶酔したような声があちこちで上がる。

「……でも勝つのは俺だよ」

生徒たちがザワッとした。分け隔てなく愛情を注ぐ男、仁科天佑らしからぬ強い言葉に動揺が広がる。
俺も思わず顔を上げた。遠目に仁科の整った顔とモデルのような姿を映すと何故かヤツと目が合ったと思った。
マイクを下ろした仁科が唇を動かす。

――覚悟してて

聞こえるはずがないのに、そう耳に届いたような気がした。








 ◇ ◇ ◇







――ほしかったら、あげる。



――いらない?そうなの。でもお前はきっと欲しくなるよ。



――僕のかわいいかわいいあの子。



――あの子を守ってね。ちょっと無防備で、すぐ人に甘えるからすごく心配なんだ。



――もちろん好きにしていいよ。



――でも出来るのかなぁ。お前とあの子は性質が合わないよ。正反対だもの。



――だからあの子はね、僕のものだよ。



――ずっと、ずぅっとね。









そんなわけない。

だから好きだって言って。

おねがい、理仁。







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