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「う……」
「どうしたのー。キスの仕方、忘れちゃったぁ?」

唇を触れ合わせながら仁科が低く笑う。
椅子に座っている仁科の膝の上に跨るようにして、俺は力の入らない体を預けていた。かなり体重をかけてるはずが仁科は軽々と俺を受け止めている。
たぶん俺は今真っ赤になってると思う。額も、耳の先までもが熱い。
触れ合うだけの軽いキス。それを何回も何回も繰り返す。角度を変えて、何度も。それだけなのに俺は身も心もグズグズに蕩けてしまった。

「ん……はぁ……」
「えっろい声……どーしていつもそんなになっちゃうの?」

意地悪くおかしそうに笑う仁科。
こんなになっちゃうのはお前だからだよ。だってお前、すげー好きなヤツと密着して、キスして、正気でなんかいられねぇよ。
ちゅう、と仁科が俺の下唇を吸う。痺れるような快感が突き抜けて、更に堕落していく。

「理仁、かわいい……」

うっそりと呟きながらジャージの裾から手を差し入れてくる仁科。直に肌を撫でられて鳥肌立った。
仁科の手はいつも熱い。その手は俺を優しく愛撫し、そして快感に導くことを知っている。

「や……仁科……」
「いやって顔してないよー?うそつき」

首筋に唇を埋めて笑われると肌にくすぐったくも艶かしい振動が直接伝わってきて、思わず仁科の服を握り締めた。
耳朶をやわく食まれて体が跳ねた。熱い吐息が耳にかかるのにさえ感じてしまう。
コイツはマジで手が早すぎる。その気にさせられるのなんてあっという間だ。
――だから嫌だったんだよ。一度その手を取ったら逃げられないのなんて分かりきってるから。

ゆるゆると仁科の手が背中を辿る。俺の体を知り尽くしてるかのような動き。
その手は背骨を滑り下着の上から尾てい骨をなぞった。際どい箇所に触れられてビクッと大げさな反応をしてしまう。
力の入らない抵抗をしてみるが、押し留めたその手を逆に掴まれた。

手を持ち上げられる様をぼんやりと見ていたら、仁科が真っ赤な舌を出して人差し指を舐め上げてきた。

「ぅわっ!」

驚いて思わず声を上げると仁科の目が細められた。
見せ付けるように舌先で指の付け根から先まで舐める。くすぐったいと思うのにそれだけじゃない怪しい感覚が俺を支配した。

「ぅ……あっ」
「ふふ。どんな感じ……?」

笑いながら皮膚の薄い手のひらを柔らかく濡れた舌で辿られると、おかしな声が出てしまった。
仁科の舌は指の間に割り入って丹念に舐めた。その舌遣いが巧みで、エロくて、感じてるような変な声が止まらない。
頼むから俺の手の性感帯開発なんかしないでほしい。
しかし仁科は更に親指を唇で挟んで口の中で指先をちろちろと舐めた。待て待てなんかそれって……。

「あっ、にしな、それ、やめ……」
「ん〜……じゃあどーしよっかぁ?」

ちゅぽ、とわざと音を立てて親指を解放し、指を絡ませながら手を握りこんでくる仁科。
正直もう俺の下半身はボクサーパンツを押し上げていて窮屈だ。でもさすがにそれを言うことはできない。このままじゃ絶対止まらなくなる。

「き、キスだけって……」
「だけなんて言ってないじゃん?」

俺の状態をわかっていて焦らすようなことを言う仁科。この熱の行き場をなくして、目の前の肩に顔を埋めた。
すると仁科は再び耳にゆるく歯を立ててきた。
こりこりと少し痛いくらいに噛み、痛みに眉をひそめたところで撫でるように優しく舌を這わせる。絶妙な飴と鞭にゾクゾクとした。

「ねぇ理仁?」
「ん、んっ……あ……」

耳の穴に直接息を吹きかけながら囁いてくる低く色っぽい声。蕩けそうになる。

「もう誰ともちゅーしないでね」
「……え……?」

言いながら仁科は俺を少し離して唇を啄ばんだ。言われている意味がすぐには理解できなくて訝しげに仁科を覗き込んだ。
カラコンを入れていない少し淡い瞳の色。長い睫毛が音を立てそうなほどゆっくりと瞬く。

「そんな顔、他の人に見せないで。ねぇ、おねがい」
「な……に言ってんだよ、お前……んっ」

膝の上に跨っている俺のほうが仁科より目線が高いから、下から掬うように唇を塞がれる。
弾力のある濡れた唇が離れると、名残惜しくてそれを追いかけた。やめたいのにやめられない。仁科が喉で笑う音が口内に響いた。

「そんな可愛いことしたら、いただきますしちゃうよぉ?」
「仁科……」

髪を梳きながら頭を撫でられた。
仁科に触れられると本当に俺は駄目になる。色んなこと全部吹っ飛んで、仁科でいっぱいになってしまう。

「約束してね」

なんだよ、それ。どうしてお前がそんなこと言うんだよ。そんなまるで嫉妬した恋人みたいな、言い方――。


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