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田中・村岡ペアは四位という微妙な順位だった。
それよりなにより田中先輩の疲労感がやばい。遠目でもやばいと感じる。頑張りましたね先輩……。

「いいんちょーお疲れさまでーす!」

突然背後から大きい声が聞こえて、驚いて思わず跳ね上がった。
手でメガホンを作って田中先輩に声援を送ったのはミネ君だった。相変わらずの犬みたいな人懐っこい笑顔で俺のすぐ後ろに立っていた。
ミネ君の1−Fも俺と同じきつねチームだから緑のハチマキを巻いている。

「び、びっくりした……いつの間に来たんだよミネ」
「今ですよ、今。先輩、ちょっと時間いいっすか!?」
「いーけど……なに?」
「あの、ほらアレ!頼まれてたやつですよ!」

ん?ミネ君になにか頼んでたっけ。委員会の仕事かなんか?やべぇ、ここんとこ色々ありすぎだったせいで思い出せない。
よく分からないが腕を引っ張られたから仕方なく立ち上がった。
龍哉と千歳に声をかけてからミネ君のあとについていく。

ミネ君は迷いのない足取りで校舎の方に向かった。
途中で校舎の見回りをしている風紀のヤツらに何人か会って挨拶した。
風紀委員は体育祭中、無人になる校舎の警備を任されている。こういう隙を狙って煙草の小火騒ぎだの強姦被害だのが多発するから風紀がより一層睨みをきかせてるのだとか。

ミネ君は監査室の鍵を開けて入っていった。
こんなときでも鍵って借りられるもんなんだな、とぼんやり思っていると、ミネ君が笑いながら振り返った。

「あ、ちょっと待ってくださいね。そこ座っててください!」
「え、あ、うん……?」

そう言ってポケットからスマホを取り出すミネ君。
タップしたりスライドさせたりを繰り返して、ようやく俺のほうに向き直る。

「これこれ、これっす!知ってます?」

そう言って見せられたのは生徒の写真。ちょっとブレてて顔が判然としない。

「? いや、あのさミネ君、なんの話?」
「えー!?」

心底ショック!という顔で大げさに目を瞠るミネ君。めっちゃ犬っぽい。

「おれのこと、鬼頭先輩から聞いてないんすか!?」
「え……えええぇ?」

ミネ君の口から出てきた名前に今度は俺のほうが驚いた。
まさかのまさかだけど、ミネ君シラタマの一員!?

「マジで?マジでお前シラタマ?」
「え、あ、ていうかおれは末端っていうか……シラタマ候補ってとこっすかね」

シラタマの組織体系は知らないが、とにかくミネ君は情報屋組織の一員だということがわかった。
灯台下暗し。こんなに身近にシラタマがいたとか、俺の世間知らずにもほどがある。

「えー……お前なんで早く言わねーんだよ。むしろその性格でよく隠せてるな。いやいや、ていうかなんでそもそもシラタマなんかやってんの?」
「シラタマは一応秘密組織なんで!そーゆーのかっこいいじゃないすか!」

戦隊ものヒーローに憧れる少年の瞳で興奮気味に語るミネ君。こいつが入っててマジで大丈夫なのか、シラタマ。

「まぁおれ結構こういう裏方の仕事っていうかが性に合ってるんで楽しいんですよ。色々知っとけば監査委員の役にも立つかなって」
「え、じゃあもしかして演劇部の賭けのことも知ってた?」
「はい!演劇部のパソコンからデータ抜いたのおれなんで!」
「おまっ……知ってたんなら言えよ!!」
「ダメですよ〜、シラタマは秘密組織だからいくら先輩でも言えなかったんですって。それに会計さん怖いんで……」

眉をハの字にして情けない顔をするミネ君。やめろ、雨の日に置き去りにされた犬の目はやめろ。

「会計さんが『俺が言うから絶対に志賀ちゃんに教えちゃダメだよ』って笑顔で脅してきたんですよ」
「仁科アイツ……」

本当に何がしたいんだあの野郎。今すぐボコりたい。


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