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生徒会長の堂々たる選手宣誓がクライマックスの開会式と――この時点で失神者が出るという謎の盛り上がりだった――、全校生徒強制参加のストレッチのあと観覧席に行った。

俺はスウェーデンリレーの第一走者。100メートルと走る距離が短いから他の競技も出ろと言われて騎馬戦の馬部分に勝手に割り当てられた。
どっちも出番は午後からだから午前中は完全に外野。全員参加の綱引きとか大縄跳びは出るけど。
観覧席はトラックの外周をぐるっと囲んでチーム別のクラスごと、と一応決められてるけど実際はみんなフリーダム。クラス関係なく部活とか委員会とか仲いいヤツら同士で固まって座ってる。

開始早々B組の席に来た千歳と俺で適当に座ってダラダラ喋っていると、開会のファンファーレと演奏をこなした吹奏楽部員の龍哉が戻ってきた。

「おかえり」
「ただいま」
「龍哉すげーな。今年ファンファーレ係だったんだ」
「まーな」

龍哉は吹奏楽部でトランペットを吹いている。今年は栄えあるファンファーレ係のうちの一人に選ばれたらしく目立っていた。

「あーダリぃ……」
「おい理仁、始まったばっかだろーが。なんでもうダレてんだよ」

千歳が生き生きした顔をして俺を小突いてくる。うざい。

「そりゃお前みたいな体育会系には楽しいイベントかもしれませんがね、俺みてーなインドアガリ勉君にとっちゃ早く終わって欲しい祭なんですよ。なあ龍哉」
「え、俺に振るんだ」
「えっ、龍哉も体育祭で血湧き肉踊る系?」
「んなわけねーよ。千歳じゃあるまいし」
「ちょ待て待てそれじゃまるで俺が体育祭大好きの脳筋バカみたいじゃん!」
「違うの?」

俺と龍哉が声を揃えてそう言うと千歳がぶんぶんと首を振った。

「まあこういう体使ったイベントは大好きだけどさ」
「ほらやっぱり」
「オタクの風上にも置けねーな」
「理仁差別発言アウトー。アクティブなオタクもいますぅ」

オタクってとこは否定しないんだな。何故か誇らしげな顔の千歳。

プログラム1番の200メートル走を見守りながら周囲の野太い声援の中で話していると突然ウォォォォ!と低い声で場が沸いた。
どうやらギリギリのところで二位走者が一位走者を抜いたらしい。開始早々の逆転劇にさっそく盛り上がっている。

「あー千歳は何出るんだっけ?」
「俺はパンとか食い競争つったじゃん。……あ、騎馬戦もな。直前で欠員出てさ、ムリヤリ入れられた」
「マジでか。俺と敵じゃん」
「俺も馬だから馬同士だけどな。龍哉はたしか障害物競走だっけ?」
「うんそう。超めんどくさい」
「個人参加の競技って練習とかないからぶっつけ本番だもんなぁ」

ちなみに千歳が参加する『パンとか食い競争』の『とか』はわりと重要。決して言い間違いとかじゃない。
食べるのはパンだけじゃなくてゆで卵を使ったスプーン徒競走(もちろんゆで卵も食べる)や飴探しとかも混じってる食欲旺盛な男子校仕様。
噂によると競技者は朝メシを抜くって話だ。千歳は普通にガッツリ食ってると思うけど。

「そういや若林はムカデ競走だってよ」
「そーなんだ」

ムカデでもなんでも見てるほうは面白いけどな、障害物ありの競技って。
若林は今A組の観覧席にいるらしい。千歳が一緒にB組の席に行こうぜって誘ったけど断られたみたいだ。

「あ、次始まるってよ。なんだっけ?」
「次?次は……あー……二人三脚だって」

放送委員のアナウンスのあと、グラウンドに設置された電光掲示板に文字が映し出される。紙のプログラムより分かりやすくていいよなこのシステム。
二人三脚――女子がいたら嬉しいのだがここは男子校、何が楽しくてスネ毛擦り合わせながら走らなきゃならんのよっていう競技。まあ相手によっては嬉しいのかもしれないけど。
しかも低いハードルとかロードコーンみたいな障害物を避けて走る結構なハード種目。

そんな二人三脚の走者の中に田中先輩を見つけてしまった。しかもパートナーがよりにもよって演劇部長の村岡先輩。
身長や体格が似てるから組まされたのかもしれないけど田中先輩の顔が真っ青。そんなに苦手なの?なんだか可哀想になるな……。

「田中せんぱーい!ふぁいとー!」

大声で叫んで手を振ると、田中先輩が俺のほうを向いて青い顔ながら微笑んで手を振り返してきた。そして何故か村岡先輩まで妖艶な笑顔で俺に手を振ってくる。
いや、なんでそんなご機嫌なの?あ、そうか、先輩たちのクラスって生徒会長が大将のとりチームだったっけ。

選手達が片足を結び合い、スタートラインに立ったところでパンとスターターピストルが鳴る。
……そういや銃は結局見つかったのかな。清水は救護班のテントにいて、今年は合図係じゃないらしい。


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