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俺は千歳の匂いのする布団に潜り込んで寝返りを打った。

「もういい寝る。オヤスミ」
「そこで?俺どーすんの?」
「床に転がって寝ろ」
「女王様かお前は。てか俺この部屋の主だよな?」

もー、と言いながら俺に顔を近づける千歳。形のいい唇が重なってきて反射的に口を緩めた。
そのまま軽く何度か口付ける。しかしキスしながら千歳の手が俺の服の裾を捲り上げた。するすると素肌を撫でられて鳥肌立つ。

「……かゆい」
「んー?ベッド貸してやってもいいけど宿賃もらいます」
「はいはいどーぞ。……んっ」

ぱくりと唇を塞がれて思わず千歳の胸を押し返してしまった。隙間が空いた俺たちの体の間に千歳の手が滑る。
キスしながら俺の部屋着をたくし上げる千歳。さわさわと掌で撫でられるとくすぐったくてつい笑った。

「おま、だからくすぐったいって!」
「……なー理仁」
「ん?」
「乳首舐めてもいい?」
「やり方知ってんのかよ童貞」
「どどど童貞ちゃうわ!」

ネタで返してくるけど童貞なのは事実だろ。
でも千歳は余裕のあるやたら格好いいニヤリ顔で言い切った。

「俺は好きな人にしか純潔を捧げないって決めてんだよ」
「早く二次元に行けるといいな」
「三次元の話だし」
「へー」

話半分でニヤニヤしながら相槌を打つと、千歳がムッとして俺の乳首に舌をくっつけてきた。
ゆるゆるした舌の動きが非常にムズムズする。

「ギャハハ!ちょ、おま、マジでくすぐったい!やめろって!」
「好きにしていいって言ったろ?」
「そこまでは言ってねーぞ」

笑い転げながら千歳の頭を押し退ける。
不満顔の千歳が目に映って俺はますますおかしくなった。

「練習させてくれ」
「なんで俺なの。拒否する。他あたれ」
「えーもー……」

服を戻すと、千歳が俺の隣に寝そべってぎゅうっと抱きついてきた。
苦しいそして狭い。

「俺もここで寝るし」
「狭いしどっか行ってくんね」
「宿賃もらえなかったんで却下」

狭いけど他人の体温が思いのほか気持ちよくて、そのままうつらうつらと目を閉じた。

「……理仁」
「んぁ……?」
「マジで、お前気をつけろよ」
「んー……」

もう半分夢の世界に行きかけていた俺は千歳の言葉をどこか遠くで聞いた。そして、同時に鬼頭の言葉を思い出していた。



『――仁科天佑』

本当は、色々なくなってることとか制裁のことよりそっちの方が俺の頭の中を占めていた。
仁科は三春のことを気にしている。俺がヤツに近づかないように。
仁科は三春と、何かあるんだろうか。
……二人はツルんでないって聞いてたけど、水面下ではやっぱり仁科も三春を――。
このもやもやした気持ちはヤキモチ、なんだろうか。
俺は三春を嫌いになりそうだった。会ったことも喋ったこともないのに。

どうしてこの想いを断ち切れないんだろう。あいつと一回寝たから?他のヤツとすればどうでもよくなる?
いや、きっとどうにもならない。仁科はアホだけど、優しいヤツだって知ってるから。
俺がひとこと「好きだ」って言えば優しく笑いながらそれを受け入れてくれる。……たくさんいるうちの一人として。
そういうのを分かりきってるからいつまでもぐずぐずしてるんだ。

仁科の恋人のうちの一人でもいいから側にいたいと思う自分がどこかにいる。でも俺のプライドがそれを許さない。
俺の我慢が限界を超えたら、たぶん、言っちゃうんだろうな。そうしたくないから必死で離れようとしてるのに、他人から名前を聞いただけでこんなにも動揺している。

「……理仁、寝た?」
「…………」



厄介な恋は、俺を追い詰める。







第三章 END


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