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「なんかさー……ちょっと教えてほしいんだわ」
「何?」
「親衛隊って、なに?」
「はぁー?」
千歳が何言ってんだコイツって感じの変な顔をした。
「……俺、千歳や龍哉といても今まで全然制裁的なのとか遭ったことなかったのよ」
「だろーな」
「今更制裁されるとかって、あると思う?」
「されたのか」
「正直わかんねー。そもそも制裁って何?抜け駆け禁止を破ったヤツへのお仕置き的な……そういうのなんじゃねーの?でも萱野に聞いたら執行部の方は全然やってないっていうしさ」
「んー……」
腕を組んで考え込む千歳の横顔をじっと見る。しかし質問の答えは曖昧だった。
「どうかな……俺は自分のとこしかわかんねーし。ただ俺はそーゆーの嫌いだし、俺んとこは絶対にさせない――ってのは言ったよな」
「うん」
「……まぁ、要するに嫉妬ってヤツだよな。あと俺が一番ムカつくのはさ、相手見てやってるってこと」
「うん?」
「例えば、コイツなら勝てる、とか、コイツは自分より下だって勝手な順列つけてやってんだよ」
俺はその話にふと若林のことを思い出した。
「……若林は?あいつA組だしすげーじゃん」
「たぶんああいう地味っぽい感じは狙われやすいよ。それに特に家柄が優れてるわけじゃないし高等部からの外部生だろ?」
「あーそういう……」
なるほどね、ナメられてるってことか。
でも俺だって別に取り立てて容姿も家柄も優れてるわけじゃない。その理屈で言うなら俺がいつイジメの対象になったっておかしくない。
「んで?何されたんだよ」
「……なんか、盗られたっぽい」
「何を?」
「色々と」
なくなったシャツの一件以来気付いたんだけど、シャーペンとかタオルとかの私物がちょいちょいなくなってるっぽかった。それに気付かないとか俺ルーズすぎんだろ。
千歳の眉間に深い皺が刻まれて表情が険しくなる。
「別になくなっても平気っちゃ平気なものばっかだったんだけど、シャツはなぁ……」
「それ、制裁だと思うか?」
「……じゃねーのかな。心当たりありすぎんだよ。仁科と一緒にメシ食ったりしたし。食堂だったから目撃者多数」
「え、仲直りしたのかよ?」
「そこらへんはちょっと微妙だから聞かないでください」
「えー」
そんな顔されても言いたくない。だって俺の恋バナになっちゃうじゃん。それだけは絶対嫌だ。
はぁ、と溜息が漏れる。ここんとこ溜息ばっかりしてる気がする。
「ほんと、わけわかんねー。人間不信になりそうだわ。もうシャツとかいいかなぁとか半分諦めてんだけど」
「諦めんなよもっと熱くなれよ」
「マジ色々考えすぎて疲れた」
「まさかのスルーとか俺ちょー恥ずかしいんだけど理仁!」
千歳にがくがくと揺さぶられたけど完全スルーを決め込んだ。ごろんとベッドに再び寝転がる。
目を閉じかける俺に千歳が苦笑いを漏らした。
「じゃあもう色々忘れて俺と『いるか荘』でも見ようぜ」
「何それ」
「日常系ゆるアニメ。疲れたときはコレで萌え萌えハスハスすんだよ」
「お前……」
思いっきり可哀想な人を見る目になっちまった。
イケメンの口から萌え萌えとか聞きたくない……。
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