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ドレス大好き演劇部との取引から一夜明けた昼休み。校内放送にて件のゲーム内容を通達すると、校内がにわかに色めきたった。
放課後には各学年に一つずつ投票箱を設置。役員選挙で使っている投票箱がまさかこんなところで役に立つとは思わなかった。
投票箱の側には賭けの内容を書き出した模造紙を貼り出して、参加するもしないもご自由にどうぞってことにした。
投函期間は体育祭の前日まで――ただし投函できるのは一人一枚、一回きり。記名式で、複数投票が発覚したら即無効。無記名でも無効。
開票は体育祭が終わったあとに生徒会と風紀と監査で行う。
集計出来次第結果を掲示板に貼り出すことになる。
学校側もお遊びの範疇として目を瞑ってくれた。
むしろ過去にはもっとすごいことがあったらしく、まだまだ可愛い方なのだとか。もっとすごいことって何があったんだろう。
そして業務ほったらかしの生徒会役員どもだが――。
ゲーム内容諸々、仁科が無理矢理ヤツらに事後承諾させたらしい。
そりゃまあ異論があるなら真面目に生徒会室に来てろって話だよな。特に会長はカタログギフトの自腹を切らされるとか。
反省して業務に戻ってくれれば仁科の仕事も減るのにな……いや、余計な気回しをしたな。
◇
「……んー……」
呻きながら目を覚ます。しぱしぱと瞬きを繰り返していると、魔法少女のパンツが目に入った。
……そうだった。千歳の部屋に来てるんだった。
心労か疲労か、夕飯後に千歳の部屋に来るなり急激な眠気に襲われてちょっとベッドを借りていた。
スポーツ特待生の千歳は一人部屋だ。
内装はシンプルでシャレてるんだけど、その……棚にずらりと並べられたやたらと露出の高い美少女フィギュアが痛々しい。本棚にはぎっしりDVDとブルーレイとギャルゲー、エロゲーが詰まってるし。
この子はなんでこんなふうになっちゃったの。出会った当初はこんなオタクじゃなかったのになぁ。
「ちとせー」
「ん?あ、起きた?」
俺が大声で呼ぶとリビングから顔を覗かせるイケメン。オシャレなブルーライトカット眼鏡なんかかけやがって……いやそれがすっげー似合うんだけど。
それにしてもこの惨状はなんだよ。
俺が寝ているベッドの上に漫画本だのDVDだのが乗っかっていて動くに動けなかった。
「DVDとか本とかどかしてくんね。や、布団ごと床に落としていいんならそれでもいーけど」
「やめてマジやめて!!」
千歳がベッドの上のものを慌てて片付ける。
なにやら巻数とか順番があるらしく丁寧に棚に収めていった。
「ワリ。ちょっと探し物しててさ。見つけたらつい没頭しちゃって」
「そーなんだ」
「かどマジ4話の最後の台詞、『ゆらちゃんまた明日』か『ゆらちゃんきっと会えるね』とどっちだったかなーと思って見返してたら結局全部見てたわ」
「あ、はい」
めちゃくちゃどうでもいい。
ていうか俺がこういう反応になるって分かってんのにいちいち説明してくるのはなんなんだ。知らねーよゆらちゃんとか。返答に困るから超やめてほしい。
ふぁ、と大きいあくびをしながらベッドから抜け出して千歳に擦り寄った。俺が寝てる間にシャワーでも浴びたのかシャンプーとボディーソープの匂いが強い。
千歳が笑いながら俺の頭にキスしてくる。
「どした。なんか嫌なことでもあった?」
「……あった」
「え、マジか。ぶっ殺してくるからそいつの名前教えろ」
どうして俺が誰かに何かをされた前提なんですかね。あと爽やかな笑顔と台詞が合ってない。
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