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急に黙り込んだ俺をどう思ったのか、仁科は俺の分まで注文して二階席にぐいぐいと引っ張った。仁科様親衛隊の子がいたらしく抜かりなく彼らに配膳を頼んで。

初めて足を踏み入れた二階席。二階っていってもロフト状になってるから面積自体は狭い。壁部分は全面ガラス張りですごく眺めがいい。
もう外は真っ暗で景色は見えないけれど、眼下に広がる庭園の遊歩道が点々とライトアップされていてそれが幻想的で綺麗だと思った。

外をぼんやり見ていたら、ふと視線を感じて正面を向いた。
向かいに座っている仁科が頬杖をつきながら俺を真っ直ぐに見つめていて、驚いてまた目線を逸らした。

「……なんか、初めて来たけどすげーな二階席って」
「そぉ?別に上でも下でもおんなじだよ」
「そりゃお前が慣れてるからだろ」

そーかなぁとふわふわした口調で言う仁科。それきり俺たちは黙った。
顔を合わせれば何かしら話をしていた俺らにしては珍しい時間だった。
いままでどういう話してたっけ。何を話してたっけ。途端にわからなくなる。

そうか、話じゃなくてキスしてたんだ。話が途切れたらどちらともなくキスをした。だから沈黙が気まずくなることなんてなかった。
ざわざわカチャカチャと階下の生徒たちが食事をしている音が聞こえる。目をやると階下の様子もよく見渡せた。これから本格的な食事時になるからだんだん人が増えてきている。

「なぁ……本当に俺、ここに来て良かったのか?」
「だいじょーぶ。俺が誘ったんだから。文句言われたって平気〜」
「俺が平気じゃねーよ」

こんなに人の多いところで仁科とツルんでるのなんて、初めてかもしれない。
コイツはあんな視線に毎日晒されてんのか?慣れてるのかなんなのか知らないけどすげー心臓だな。改めて仁科の人気っぷりを目の当たりにしたような気がする。

すると、二階席に二人の生徒が上がってきた。仁科様親衛隊のヤツらだ。
可愛らしい顔でにこにこ笑いながら俺と仁科の前に配膳をしてくれる。

「ありがとー」
「……悪い、ありがと」
「ごゆっくりどうぞ、仁科様、志賀様」

見たことない顔だと思ったら、二人とも一年だった。丸い頬をピンク色に染めてちょこんと礼をして去っていく。
仁科は彼らにひらりと手を振って、さっそく揚げたてのエビフライをぱくついた。お前昨日もエビフライだったって言ってたよな?

「タルタルソースおいしー」
「えぇー……お前なんで今日もそれなんだよ」

だったら最初からそれにしとけよ。何のために迷ったんだよ。

「違うって。昨日はフライ盛り合わせ。今日は日替わりの海鮮フライ定食。中身全然違うからぁ」
「どっちもエビフライだろ?」
「そうだけど〜」

さくさくとフライを平らげていく仁科。ホタテフライちょっとうまそう……じゃねえよ。
早いところ食べてここから出よう。今日はどうも調子が狂う。そう思ってドライカレーを急いで完食したが、仁科はまだ半分も食べ終わってなかった。おっそ、食うのおっそ。

「……あのさ、お前、滝と仲悪いの?」
「ん?えー……う〜ん……」

俺の問いにうにゃうにゃと仁科が口ごもる。

「や、別にいいけどさ。お前にも苦手なヤツっているんだなって、ちょっと珍しく思っただけ」
「いるよそれくらい」

仁科がいつものふにゃふにゃ口調じゃなくてやけにきっぱりと言い放ったから面食らう。味噌汁を啜る手を止めて俺をじっと見た。

「あ、そ、そーだよな」
「……滝は嫌い」
「え」
「他にもいっぱい嫌いな人いるし」
「…………」
「志賀ちゃんと仲いい人、みんな嫌い」
「は?」

俺?なんで?
驚いて仁科の顔を見ると、神妙な表情をしていた。

「俺だけ志賀ちゃんに嫌われててずるい」
「……や、それは」

嫌っては、ないんだけど……。
あー話題の選び方失敗した。こんなところで話すことじゃなかった。

「あーの……だから、別にお前のこと嫌ってねーから。言葉のアヤっつーか」
「じゃあ俺とちゅーしよ」
「……それとこれとはハナシが違うって」

どうしてそこがイコールなんだよ。
ていうか、仁科の言い分がガキすぎてな。小学生かよ。好きも嫌いも公平じゃなきゃいけないって、どういう理屈だ?




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