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翌日の放課後、俺は田中先輩とミネ君と三人でとある部室の前に来ていた。田中先輩が小さくノックをする。

「監査委員です。視察に来ました」

返答を待たず問答無用でドアを開けるとざっと中を見回した。
割と広めの部室にはベニヤ板のはりぼて、大きな布、壁に貼られたたくさんの写真、トロフィー……そして部員が7人、集まっていた。

部員たちは少し驚いたように俺たちを見たが、部長の村岡先輩が気を取り直したように田中先輩に向かって笑った。
村岡ツバメは長めに伸ばした艶のある髪が印象的な中性的な美形だ。田中先輩を日向のような暖かい美人だとすると、村岡先輩は月夜のような静かで妖艶な美人だ。

そして、そんな彼は演劇部の部長である。

「真尋君?監査なんて突然だねぇ」
「……まあね」

笑顔で凄まれて田中先輩が怯えたように俺の背に隠れた。こらこら先輩逃げるんじゃありません!
田中先輩と村岡先輩は同じクラスなんだそうだ。下の名前で呼んでるあたり、仲がいいのか悪いのか。力関係は村岡先輩のが上っぽいけど。
仕方なく俺があとを引き継ぐ。

「単刀直入にいきましょうか。体育祭の賭け、中止してください」
「…………」

いきなり切り出せばちょっとは動揺するかと思ったけど、村岡先輩は余裕の笑みを浮かべていた。

「賭け?なんのことかなぁ」
「へーしらばっくれるんですかぁ」

村岡先輩につられて口調がうつっちゃった。ひとつ咳払いして、後ろ手に持っていた封筒から書類を取り出した。

「これなーんだ」
「……っ」

俺が村岡先輩の鼻先に突き出したのは、数枚のA4用紙。生徒の名前がずらずらと載っている。
これは、賭けに参加した生徒のリストだ。仁科が情報屋に依頼して演劇部のパソコンからデータを拝借したらしい。

そう、仁科と滝がシラタマって言ってたのは情報屋のことだった。……情報屋とか、ここ高校だよな?
しかし仁科も滝もその正体については教えてくれなかった。容易に吹聴されては情報屋として機能しないから他言無用を強いられているらしい。

「それは……」
「見覚えありますよねーコレ。参加料ぼったくって、何しようとしてたんですか?」
「…………」

悔しそうに村岡先輩が歯噛みする。
この賭けは演劇部が中間マージンを取る方式だった。演劇部主導で結構な人数が参加してるらしくてその金額は膨大だ。金持ちが多いせいか個人の賭け金が多くて、集めた金は七桁に膨れ上がってるとか。
参加者から預かった金は演劇部の張りぼてや衣装の中に巧妙に隠している――というシラタマからの情報つき。
部室に鍵はかかってるけど完全じゃないし、それ盗まれたらどうするつもりだったんだろうか。

けれど、急にこう言っても簡単には納得しないだろうってのは、仁科、滝と話し合って出した結論だった。
村岡先輩以下演劇部連中はプライドが高く、容易に折れるようなヤツらじゃない。今も俺たち監査を敵のように睨んでいる。
演劇部はOBに強力なバックが付いていて部活動廃止を盾に脅すのも正直難しい。良くて予算削減くらいか。でも今回は膨大な金額が関わっているため取引の即効性に欠ける。
このまましらを切り通されて話が進まない懸念もあった。だから、すかさず代替案を出す。
……まぁ仁科は面白がって完膚なきまでにぶっ潰そうとしてたんだけど、俺と滝で全力で止めた。

「――賭けは、このまま全校生徒参加制にするってのはどうですか。ただし参加は自由で生徒会からの賞品つき」

ぴくり、と村岡先輩がわずかに反応した。その動揺を揺さぶるようにすかさず言葉を続ける。

「内容は全チームの順位を予想してもらうこと。ピタリ賞は『学食食べ放題タダ券一か月分』と『青柳グループ特選カタログギフト』、上位三位まで当たったニアピン賞は『学食一週間タダ券』」

金持ち学校でこんな賞品たいした魅力にならないだろうなとは思う。やっぱり演劇部連中も特に顔色を変えなかった。

「そんなのたいしたものじゃ――」
「……副賞として『生徒会執行部・風紀委員会の中のお好きな方一名と24時間べったり過ごせちゃうデート権』〜」

アホらしい提案をトドメとばかりに言うと、ザワッとした。


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