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結局、役員の奴らは誰も来なかった。というよりここのところ三春にくっ付いていてほとんど生徒会室に顔を出さないらしい。
中庭では『執行部+αバーサス風紀!』って感じの大立ち回りしてたくせに、肝心の業務はマジでほったらかしなんだとか。
現在は実質仁科と補佐だけで生徒会運営を回していて、それについて仁科は何も言わない。ヤツらの中でどういうことになっているのか、はぐらかされて詳しくは教えてもらえなかった。

そんな話題も含めながらだったから肝心の本題よりほとんど雑談ばっかりしてたんだけど、仁科と滝ってなんか知らないけどすげー仲悪いらしくて俺を中継して話をしていた。間に挟まれた俺は非常に肩身が狭い。そういう話し方ってどうなの?

こんなにはっきり人を嫌うなんて博愛精神旺盛な仁科にしては珍しい。
まぁもともと執行部と風紀って仲悪いしな。

そうして仁科と滝と話し合いをしていたら、外はすっかり暗くなっていた。
途中で田中先輩から「僕たち帰るよ」って電話で連絡が来て監査室に置きっぱなしのカバンを取りに行ったくらい話し込んだ。

「お話中失礼します、副委員長はいらっしゃいますか」

俺たちの会話をおずおずと中断したのは風紀委員の腕章を付けた生徒だった。滝が手を上げてそれに応える。

「いるいる。なに、委員長から呼び出し?」
「はい。本日の会議をしたいので、至急来るようにと」
「りょうかーい。じゃあまたな、志賀」
「おー」

滝は仁科には挨拶をしなかった。仁科も完璧にシカト。
いやだからそういうのは俺のいないところでやってマジで!
滝がいなくなって、昼と同じようにまた生徒会室に二人きりになる。

「……あー……じゃあ今日はお開きってことで」
「待って志賀ちゃん。一緒にご飯食べよーよ」
「え、お前学食だろ?席違うじゃん」
「別にだいじょーぶだよぉ。でも志賀ちゃん気にするならケータリングでも頼む?」

ケータリング!?そんなサービスあんの!?ここ学校……いや、いいや。こいつらについていちいち突っ込んでられない。

執行部は学園の中で特権階級だから、学食ひとつとっても優遇されている。いつでも快適な食事ができるようにと眺めのいい二階席が用意されているのだ。そしてそこは当然のように一般生徒利用禁止。

「もー俺おなかぺっこぺこ!ねー早く何か食べようよぉ」

甘えるような声で仁科が言う。大の男がそういうこと言うと鳥肌モノだけど、仁科にかかればそんな台詞も何故か似合ってしまう。
俺だって腹は空いている。でもこいつと一緒に学食とか……。

「志賀ちゃん行くよ〜」
「え、あ、ちょっと……」

迷っているうちに仁科に引っ張られて生徒会室を出た。はしゃぎながら歩いている様を見たら、まあいいか、と俺もつい絆されてしまった。

俺はいつも龍哉や千歳と飯を食ってたから、仁科と学食で一緒に食うなんて実は初めての経験だ。
同室時代、朝だけは作ってやってたがそれ以外は別々だった。仁科はだいたい親衛隊に囲まれて日替わりでやつらと食べてたから。


去年のことを思い出して胸がぎゅっと苦しくなる。

仁科はよく親衛隊の子達を部屋に連れ込んでいた。
共用スペースでイチャつくことはあまりなかったけれど、すぐに自スペースの方へ引っ込んで毎日のようにニャンニャンしてたから。
鬱陶しいなぁとは思ったけど、あんまりそういう個人の事情に関わらないようにしてたから気にしないようにしてた。
でも思い返すとやばい。仁科のことが好きだって自覚しちゃったせいで、もやもやとかイライラとか、過ぎたことなのにそんなことが今更気になって仕方ない。

仁科様親衛隊の子達は健気でノリも良くていいヤツらだから俺もそれなりに仲良かったけど、今はどうかと聞かれると正直複雑だ。
現隊長の萱野は仁科のことは肉体関係なしの純然たる崇拝対象だと言ってたから、なんとなく大丈夫なんだけど。


そんなことを考えていたら食堂に到着した。
……って、あれ?いつの間にか仁科と手を繋ぐ形になってるんだけど。振り払おうとしたのに案外強い力で握られていて離してはもらえなかった。

食堂は校舎とは切り離されている。営業時間は朝は6時から、夜は8時まで。土日も営業するけど祝日と長期休暇は閉店する。
食券方式だけど執行部はだいたい親衛隊に膳の上げ下げを任せている。傍から見たら完全にパシリなんだが、親衛隊にとっては彼らと直に接することができる貴重な機会なので嬉しいらしい。

仁科が食堂に入ると、さっそく食事中の生徒たちが沸いた。仁科様〜という声援ににっこり甘く微笑んで応える仁科様はさすが慣れてんなと思う。
そしてその隣にいる……というかがっちり手を繋いでる俺を見て生徒たちが目を瞠りヒソヒソとする。めっちゃいたたまれない。ジャージだし。

「志賀ちゃん何食べる?」
「えーあー……うーん、ドライカレーかな」

迷う暇も惜しくて即決した。さっさとこの場から逃げたいのに、仁科はうーんどーしよっかな〜と唸りながら迷っていた。

「きのーはエビフライ食べたから和食系かなぁ。あーでも日替わりもいいかもぉ」
「さっさと決めろ」
「えーだってお腹空きすぎてどれも食べたい!ってなるんだもーん」

「もん」じゃねーよ「もん」じゃ!すっげー見られてるから!せめて手を放せ!
そう思ってたのにうんうん唸りながら仁科が指を絡ませてくる。おいそれ恋人繋ぎ。

……なんつーか、ダメなんだよ、俺。こういうピュアっぽいの、すげーダメ。

顔がぼわっと熱くなって手に汗をかく。
俺はうつむいて仁科がメニューを決めるのをじっと待った。



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