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渡辺2の言っていた通り体育倉庫へと言って目的のものを入手すると、清水の待つ進路指導室へと急いだ。

体育倉庫から職員室のある棟まで少し距離がある。
放課後の廊下は、寮に帰る生徒と部活に行く途中の生徒とまだ帰らないでダラダラ喋ってる生徒と……ざわざわとしながらまったりとした空気が流れている。
ジャージのポケットに銃を忍ばせて歩いていると、進路指導室近くに来たところで窓の外の中庭の方から知っている声がうっすらと聞こえてきた。

「――にかく、即刻……、しろ――だ」

風紀委員長?
ひょいと窓の外を見ると、風紀委員らしき集団と、それに相対するように数人の集団がいた。

「おれはただっ、みんなと仲良くしたいだけなんだっ!!」

はっきり聞こえてきたその台詞は、初日に聞いたっきり、なかなか忘れられない三春のあの馬鹿でかい元気いっぱいの声だった。
三春は身長が小さいのか、生徒会のやつらや鬼頭に囲まれていてその姿ははっきりと見えない。
ただ、もじゃもじゃ頭の先がピョコッと飛び出しているのが辛うじて見て取れる。

なんか揉め事?とりあえずそこに千歳や若林はいないっぽい。
周りの生徒に混じって食い入るようにその場面を見つめていたら、突然襟を後ろから引っ張られた。

「ぐぇっ!」
「何してんだ志賀。もうすぐ主任来んだから早くしろや」

いつの間に背後にいたのか、俺の気道を絞めてくれたのは清水だった。
そのまま進路指導室に強引に連れ去られて閉じたドアに押し付けられた。

「出せ」
「えぇー完全にカツアゲの構図なんですけど……」

とはいえあんまり俺も用事を長引かせたくないから、ポケットからスターターピストルを取り出した。

「マジ助かったわ!つぅか……うーわーこれもう傷だらけじゃねーかよ。アイツらこれで遊びやがったな」
「それでバレてももう俺知りませんからね」
「んん、ま、なんとか誤魔化すわ。……あ、それ礼な」

それ、と言いながら指差したのは机に乗っている白いビニール袋だった。中にはジュース缶が3本入ってる。

「ビールにしようと思ったんだけどな、マジメな志賀君に怒られそうだからノンアルコールにしたわ。監査のヤツらで飲めや」
「はぁ、ありがとーございます」

つかビールなんてもらっても缶の処理とか面倒だからいらねーんだけど。そりゃあったら嬉しいけど。酒って当然学内じゃ売ってないしなかなか買いに行かれないからね。


進路指導室を出たら、中庭にはもう誰一人いなかった。
教室にカバンを取りに行ったあと監査委員に顔を出すと、いつも通り田中先輩とミネ君がいた。
はー……俺の癒し空間。

「志賀君お疲れ様」
「お疲れです」
「あれっ!先輩どーしてジャージなんすか!?」
「あー今日制服ダメにしちゃってさー。もうジャージでいいかって」
「そーなんすか!?」
「そうそ。あ、そうだ。わりーけど俺ちょっとこれから生徒会室に行って来るんで。これ清水先生から差し入れね」

監査室には腕章を取りに来ただけだ。陸上部でもらった菓子とジュースを田中先輩に手渡すと、彼がきょとんとして首を傾げた。

「生徒会室って……正気なの?」

正気を疑われた。いやまあ、そうなんだけど……あの生徒会室に自ら飛び込んでくとか。

「事情はあとで話します。監査委員にも関係あることなんで」
「え、何だろう。なにか問題?」
「アレですよ、風紀から言われてた体育祭の賭けとかの件」
「あ」

だよな。田中先輩も忘れてたよな。そしてそういえばミネ君に伝えるのすら忘れてたってことをたった今思い出した。
ミネ君が話が見えないって感じの顔で俺と田中先輩を交互に見てる。

「仁科が……会計のヤツがその辺のこと掴んだらしいんで話聞いてきます」
「へぇ、執行部がねぇ……」
「じゃあミネ君には田中先輩から事情話しといてくださいよ」
「そうだったね、ゴメン峰岸君」
「えっ、えっ、なんすかなんすか!?おれ除け者ですかー!?」

若干泣きそうな声で叫ぶミネ君がちょっと可愛い。こう……犬が「なにそれなにそれ」って纏わり付いてくる感じっていうか。
ミネ君を宥めながら優しく話し始める田中先輩にその場を任せて、俺は仁科の待つ生徒会室へと向かった。




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