53



その後の授業は真面目に受けて――まあ二時間だけだけど――放課後になると、俺はまず清水のお遣いを果たすために陸上部の部室へと向かった。

部室をノックすると「うぇーい」というダルそうな返事が返って来た。中にはまだ二人しか揃ってなかった。
まだらな金髪のヤツと、口と鼻にピアスした紫髪のヤツだ。どっちもまともに制服を着ていないしごついアクセじゃらじゃらつけてタトゥーまでしてるガラの悪さ。

「よう渡辺1、渡辺2」
「数字つけんなし!てかどっちがどっちよ!」

渡辺が俺を見ながら二人とも笑う。ちなみに1の方が金髪の翔汰で2の方が紫髪の廉だ。兄弟とかじゃなくてたまたま名字が被っただけの赤の他人。
げらげら笑いながらジェンガをする二人。机の上には吸い殻の溜まった灰皿……陸、上、部、だからなここ。

学園を出た街中でバイク乗り回してるこいつらは、自分の足でも走り屋をしてる。その心境はよくわからんがとにかく走る行為が好きらしい。
数年前からそんな伝統になってしまったらしい陸上部、真面目な陸上部員もいつしか染まってヤンキーの集まりになっちゃったっていう話だから、腐ったリンゴはなんとやらってヤツだ。

「どしたのりっちゃん、ここ来んの珍しーじゃん。カンサ?」
「いや?お前らにちょっと頼みごと」
「ほ〜ん?まーいいや。なーなーりっちゃん、ちゅーしよちゅー」
「いいよ、ほれちゅー」

渡辺1に腕を引かれて軽く口付ける。
ちゅ、として離れようとしたら唇を追いかけるように舌で舐められた。
頭を固定されてがぶりと噛みつかれる。煙草の苦い香りと味が鼻を突き抜けた。吸われるように何度か啄ばんで翔汰の顔がようやく離れていく。

「ヤッベ勃っちまった。どーしよりっちゃん!」
「いらねー報告すんじゃねーよ」
「勃っちまったもんはしょーがねーべ。なーぁ、りっちゃんもうオレと付き合っちゃお?」
「俺がタチでお前がネコすんなら考えるわ」
「無茶言うなし!どー考えたってりっちゃんが下だろ!お前のキス顔エロいし、突っ込んでアンアン言わせてー」
「ハイ交渉決裂。ハイ終了ー」
「ショーちんまたフラれてんしチョーウケる!」
「ウルッセーよ」

大声で元気に笑う渡辺たちに、俺はくだらねー話を切り上げて本題を切り出した。

「あのさーちょっとスターターピストル貸してくんね?」
「おん?なんでよ。それはヘッドに聞いてみなきゃわかんねー」
「マジか。部長いつ来る?」
「さーなー。あん人いつも保健室で寝てっから来んのテキトー」
「どこにあるかは分かるか?」

俺が短く聞くと、渡辺2がジェンガを引き抜きながらうーんと唸った。

「たしか体育倉庫のー、オレらの用具入れんとこ。あ、でも遊んでパンパンやっちまったから弾はねーべよ?」
「お前らなぁ……弾も部費だろ?マジでちゃんと活動してんだろうな?ことによっちゃ予算減らすぞ」
「やっべこえー!りっちゃん怒んなし!んじゃアレだ、とりまヘッドには監査のカンサが入ったから持ってかれたって言っとくわ。どーせ大会の練習まだだししばらく使わねーしな」
「あ、大会出てんだ」
「当たり前っしょー!いっつも一回戦敗退だけどねー!あ、でもタマ投げはケッコーいいとこまで行くし」

タマ投げって砲丸投げのことか?こいつらが言うとなんか別の意味に聞こえるな。なんか物騒な感じの抗争的な。
つーかヤンキーのくせに変なとこで真面目だ。いやちゃんとやってもらわないと俺ら監査の責任にもなるんだけど。

「んじゃ、部長によろしく言っといて」
「あいよ。なに急いでる系?ちょっと遊んでけば?ジェンガ二人だとつまんねー」
「すげー緊急。お前らと違って暇じゃねーんだわ。じゃーな、お前らちゃんと部活やれよ」
「あ、りっちゃんこれやるわ。持ってけや」
「うお、さんきゅ」

そう言って渡辺1に投げられたのはサラダ味のスナック菓子だった。
渡辺たちとダルそうな挨拶を交わして陸上部をあとにした。




prev / next

←back


×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -