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ちゅ、とわざとらしいリップ音を立てて清水の唇が離れる。

「ちょ、もー……何すんですか」
「うんうんいいね。可愛いわお前」
「つーかマジ……はぁ、もういいや。気ィ済みました?」
「しょーがねー、怯えちゃってるカワイソーな志賀君にはここまでにしといてやるよ。キモチイイことはまた今度な」
「俺で遊ばないでくれません?」

俺の反応を見たかっただけらしい清水はあっさり離れていった。
ロクでもねー教師もいたもんだ。哀れな可愛い男子はこうやってコイツに食われるんだろうな、きっと。オラオラ系で断りきれない雰囲気あるしなんかエロいし。

内心呆れながら腰を上げると、ふわっと埃が舞い上がった。制服が真っ白ですごいことになってるしもう一旦寮に帰った方がいいかもしれない。あ、でも鍵ないんだった。

「そんで?放課後、銃どこに届ければいいですか?」
「んー……いや、俺が監査室に行くわ」
「わりと迷惑なんでやめてもらえませんかね」
「アハハハ!キッツ!キッツいな志賀君は!癖になりそー!」

何この人……ドM?余計田中先輩やミネ君と会わせたくねぇ。

「先生は6時間目、授業あるんすか?」
「今日はねえよ。じゃあ進路指導室に来いや。開けといてやるよ」
「りょーかいです。あと借りれなかったら潔く諦めて小川先生に土下座でもなんでもしてくださいよ。そこまで責任持てないんで」
「それはマジ勘弁。主任こえーんだもん。二時間説教とかされたことあるから、俺」

完全に自業自得としか言いようがない。教師の癖にやたら生徒寄りのゆるさ加減だなコイツ。
こんなんでもあのA組の担任やってんだからすげーわ。……いや、これくらい図太くないと一癖も二癖もあるA組の担任なんてやってらんねーか。

S組担任の学年主任・小川先生はさらにその上を行くんだからもうわけが分からない。
この小川先生、監査委員の顧問として俺らの前にいる時は気のいいおっちゃんって感じなのにな。



清水と密約を交わして教室に戻ると、ちょうど4時間目の体育が終わるところだった。
クラスメイトがぞろぞろ戻ってきて俺に目を留めると「いたのかよ!?」って顔された。
そのうちに龍哉が戻ってきたから手を振ると、やつは埃まみれの俺を見て苦笑した。

「理仁なにそのカッコ?きったねーな。しかもまた授業サボってるし。寝坊?」
「俺だって授業出る気満々だったっつーの!でもさー清水に捕まって……」
「清水?ってD組の?」
「違う違う。センセーの方」
「あー……」

龍哉の顔が複雑そうに歪む。この反応、清水と話したことあんのかな。

「んで、何してたんだよ?」
「なんか……色々頼まれごと。アイツまじふざけてる」
「ふーん。お前ってホント厄介なのに目付けられんな」

言いながら龍哉がパタパタと俺の制服についた埃を払う。

「うしろ向いて」
「ん」

世話焼きな龍哉は背中とか尻とかの見えないところの埃まで落としてくれた。
白い埃が舞って、近くにいたヤツがわざとらしい咳払いをしながら「外でやれよきたねーな」と笑った。

「制服替えあんの?」
「寮に帰ればある」
「もうジャージ着替えれば?白いの落ちねーよ」
「ウソそんなに?」

どうしようかと思ったけど、体育のあとで着替えている皆に紛れて俺はジャージに着替えた。
脱いだ制服を見てみたらなんか蜘蛛の巣までくっついてたのを見つけてなんとも言いがたい微妙な気持ちになった。
そんなに頑張らなくてもいいじゃん俺……。




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