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「……実は、さっき下駄箱にこういうの入っててさ」
「なに、手紙?」

若林が尻ポケットを探り、ぐしゃぐしゃの紙を俺に差し出してきた。
慌ててポケットに押し込んだ感じで丸まっている。

パソコンで出力した文字。
その内容は、要約すると『お前みたいなブサイクなオタクごときが執行部や人気者の皆様に取り入ってんじゃねえよ』的な文章だった。

俺はぐしゃりとその紙を握りつぶした。くだらなすぎていっそ笑いがこみ上げてくる。

「……滝にさーって、滝、知ってるよな?お前と同クラの風紀副委員長」
「知ってる」
「あいつに今までのイジメのこととかもちゃんと言えよ。なんだったら俺付いててやるし」
「い、いーよそれくらい。自分で言えるって」
「そか」

なんとなく吹っ切れたっぽい若林に笑いかけると、若林も頬を染めながら笑った。


その後A組に戻る寸前で萱野につかまった。
同時に滝にも会ったから三人で戻ろうと思ったのに、若林にいいって言われて渋々滝に任せた。

若林と滝と別れた後、俺は萱野と空き教室に向かった。
その途中で始業のチャイムが鳴る。もう今日は完全にさぼりだ。

「さっきA組のぞいたらぁ、あの子の席?かなぁ、ちゃんと綺麗になってたよ」
「え、じゃあクラスのヤツがやってくれたんだ。すげー」
「すげーっていうか、すごいのは志賀ちゃんだよぉ?」

俺?ゴミ片付けただけで別にすごいことしてないような。

「ほら、あからさまなイジメでうわぁって空気をさ、志賀ちゃんが変えてくれたってクラスの子に聞いたよ。もぉあんまりカッコイイとこ見せないでよねぇ。あの場にいたクラスの子達みんな志賀ちゃんファンになっちゃったよ〜?」
「大げさな……つか俺程度にファンとか引くんですけど」

顔を顰めると萱野は綺麗な顔でにっこりと妖艶に笑った。

「まぁそーゆーとこが志賀ちゃんのいいとこだよね。かわいい〜」
「可愛いとか、え、それ俺どういう反応すればいいの?」
「んふふ」

萱野が俺の顎を優雅な仕草で掬った。そのまま柔らかく唇を食まれる。

ちゅ、ちゅ、と小さな音が唇の間に響く。温かくふんわりとしたキスが心地いい。興奮していた頭が冷静になっていくのを感じた。

「……ふ、情報前払いもらっちゃった。志賀ちゃん甘くっておいし」
「お前ってホント物好きなヤツ」
「ふふ。それでね、制裁の件なんだけどぉ」

至近距離で萱野が魅惑的に微笑む。

「たぶん、生徒会の親衛隊の制裁じゃないと思うなぁ」
「え、あ、そうなの?」
「そもそも制裁なんてここんとこ何年もやってないらしいんだよねぇ。そういう風習があったのは確かだし時々ちょっと釘刺すこともあったけど、それにしたってあんな過激なことしないよ。これは僕たち仁科様親衛隊だけじゃないよ。他の役員様方の親衛隊も同じ。あの方達を陰ながらお支えしながら見守るっていうのが第一の目的の集まりだし」

これは初耳だ。

でも誰々が制裁された〜ってのはちょくちょく耳にしてたんだけどな。
どういうことだ。




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