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汚れを落としてから、周囲に聞こえないよう配慮しながら俺は慎重に若林に聞いた。

「若林、こういうことって今までにもあった?」
「……ちょっと。でも、ここまでひどいのは初めてだ」
「マジかよ。下らねーことするヤツがいるんだな。すっげムカつく。誰かに言ったことある?」
「……ない。だってたぶん、どっかの親衛隊の制裁だと思うし」

制裁?その言葉に驚いて目を瞠った。
若林が暗い顔をしている。

「心当たりでもあんの?」
「いや。でも『生徒会の皆様に近づくな』とか『調子乗るなよ』とか忠告?的なことされたから……」
「え、お前生徒会となんか接点あった?」
「ないって。ただほら、三春と同室だったから結構連れまわされて、一緒にいること多かったからそういうので、たぶん」
「何だよ完全にお前とばっちりじゃん!」

あまりに理不尽な理由に俺は思わず天井を仰いだ。

「あーもー……すげーな若林。俺そんなことされたら完全に泣くわ。色んなとこに泣きついちゃうわ」
「泣きつく友達もいないんで」
「もーじゃあこれからは俺に言ったらいいじゃん。千歳でも龍哉でもいいし。てか言えよ。俺ほんとこーゆーの嫌いだから。誰かに言うのカッコ悪いとか思うなよ」

若林の瞳が揺れた。

こんなときまで無表情って、……いや我慢してるんだよな。
我慢して、それで無表情を取り繕ってんだよな。

だって昨日はあんな楽しそうだったじゃん。

俺も小学校の頃イジメられてたことがあるっていうか、ハブられてたことあるから、こういうことの悔しい感じとかやるせない気持ちはわかるつもりだ。

イジメされてるなんてカッコ悪くて情けなくて周りに言い出せない気持ち、とか。

俺はもやもやした気持ちのままスマホを取り出した。電話帳を呼び出してコールする。

『あれぇ珍しいじゃない。おはよぉ』
「……萱野、ちょっとあとで聞きたいことあんだけど」
『いいよ。今A組で騒いでる件?』
「話が早くて助かるわ」
『うふふ、志賀ちゃんの頼みならいくらでも』

手短に話して通話を切ると、次に滝に電話をかけた。

「あ、滝?はよ、俺だけど」
『んーああ?どしたの?』
「お前教室行った?」
『まだ。今風紀室ー』
「あのさ、お前と同クラの若林いるだろ」
『いるねー。それが何?』
「若林が制裁遭ってるっぽいの知ってる?」

唖然としたように滝が黙り込む。知らなかったみたいだな。

「ちょっと若林の周囲警戒してくんない?風紀ってそーゆーのも仕事だろ?」
『いいけど……え、なんで若林が制裁とか遭ってんの?』
「三春関係っぽい。あとで詳しく話すし」
『わかったー。すぐ教室行くわ』

他にも事情知ってそうなあたりにぽつぽつ連絡とったとこでスマホをポケットにしまった。

「……志賀君の交友関係パネェ」
「まあこれが監査の本気ですよ。地味だけど地味にすごいのよ監査委員。クラブ関係はほとんど顔利くしね」
「最初に電話した萱野って……会計の親衛隊長?」
「うんそう。仁科んとこは制裁とかつまんねーことやんないルールだったと思うけど横の繋がりあるから」
「……どーしてそこまでしてくれんの」
「だって気持ち悪いじゃん。好きなヤツと好きなふうに友達でいたいのに、制裁とか変じゃね?増してや若林って巻き込まれたクチじゃん。
 あ、てか、俺三春のことも若林のことも全然知らないのに口出しすぎちゃった?ごめん……つい頭に血が上っちゃって」
「ううん、ありがと志賀君。……ごめん、正直言うとちょっと参ってたから」


若林は気弱な声音だった。さすがにショックが大きいのか顔色が悪い。





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