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椎名と別れたあと靴を履き替えて教室に向かうと、若林が黙り込んでいることに気付いた。

「……若林?」
「あ、え、なに?」
「ボーっとしてたから。まだ疲れ抜けてない系?」
「んなことないよ。なんか色々考えてただけ」

若林は無表情なりに雰囲気ってかオーラが重い感じがしたからちょっと気になった。
胸がざわざわとする。そしてそういう予感はだいたい当たる。



教室前で別れてB組に入ると、まだ登校してるヤツは少なかった。

クラスメイトに適当に挨拶しながら自分の席についてふと気付いた。
寮部屋のカードキー忘れてきた。若林と一緒に出たから施錠の時点で全然気付かなかった……。

そういや若林とアドレス交換してないわ。
もし若林がいない間に帰ったら連絡取れなくて俺部屋に入れないじゃん。

まだSHRまで余裕あるし事情話してメアド聞いとくか。
そう思って隣のA組に向かうと、ちょうど良く顔見知りのヤツがいたから声をかけた。

「はよー。なー若林いるよな?」
「あ、い、いるけど……その、今はやめた方が……」
「なんで?おーい若林、俺部屋にカードキー忘れてきちゃったんだけど――」

言いかけて俺は思わず動きを止めた。

若林は教室にいた。
でも、机の前で立ちすくんでいた。



だって机も椅子も、ゴミだらけだったから。



生ゴミも混じってるのかすごい異臭だ。

呆然とした若林がゆっくりと俺の方を見た。

「し、志賀、くん……」
「……何それ、お前の席?」
「や、ちが……う、ん……」

何故とっさに隠そうとしたのか、若林は俯いて真っ赤になった。

こんなあからさまなイジメを目の前に、俺は頭にカッと熱が上がった。近くにあったゴミ箱を引っ掴み、若林の席に近づく。

「い、いいよ志賀君、汚れるって」
「汚れたってジャージあるから平気だし。つか俺こういうの許せないんだわ。誰がやったか知んねーけど、陰険で性格悪いのムカつく」

不機嫌丸出しの声でそう言うと、遠巻きに見ていた周囲の奴らも押し黙った。
俺は窓の近くに立っていた素朴な感じのヤツを大声で呼んだ。

「ちょっとそこのヤツ、窓開けて。こんな臭いの中で授業受けたいわけ?」
「あ、はい志賀様……!」

様?

俺が指名したヤツが慌てて窓を開けるのを見届けてから、腕を捲り上げて若林と一緒にゴミを片付けた。

生ゴミは幸いあんまり汁っぽくなかったからゴミ箱に全部入れられたけど素手でやっちまったから手が異臭を放ってる。若林も同様だ。

「……ごめん、志賀君」
「いいから。てか千歳は?」
「今日はまだ見てないけど……」
「んだよマジで使えねーな」
「あ、あの志賀様……」

窓を開けた生徒が俺におそるおそる話しかけてきた。
だから『様』ってなに。

「なに?」
「お、おれも手伝います……」
「あ、そう?なら雑巾持ってきてくれる?床とか汚れてっから」
「あの……僕も手伝います!ゴミ、捨ててくるっ」
「お、俺も!箒とちりとり出すんで!」

わらわらと若林の席に集まってきたA組の奴らをぐるりと見回した。

「これいつからこうなってたの?」
「わ、わかんないです。僕が来たときはもうこんな風になってて……って、僕もさっき来たばっかなんですけど」
「ふーん……若林ちょっと手洗いに行こうぜ」
「う、うん……」

若林の手を掴んで便所に連れて行く。


手を洗ってもゴミの嫌な感触は手に残っていた。






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