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俺はやんわりと顔を背けた。
「なにお前、付き合ってるヤツいんじゃねーの?」
「……コクったけど友達以上恋人未満、みたいな」
「そーなの?」
龍哉が無言で首を縦に振る。うわぁ微妙な距離感の恋愛してんだなぁ……。
「でも好きなヤツがいんのに俺とキスはねーだろ」
「そういうとこ妙に潔癖だよな、理仁」
「けじめってヤツだよ」
はっきり相手がいるヤツとはキスしない。それが俺の中のひそかなルールだ。
自分の恋愛観は逆なのにな。
「でもなんかもーいいかなって。相手はっきりしないし」
「諦めんなよバカ」
「振り回されんのしんどい」
そう言ってまた俺にキスをしてくる。
こんないいヤツを振り回すとか、どんな悪女……悪男?だよ。
龍哉が相手についてあんまり言いたがらないから俺も突っ込んで聞いたことないけど、気分良くないよな。
龍哉のキスを受け入れながら、俺はファーストキスのときのことをぼんやり思い出していた。
あんま緊張とかしなかったけど、あん時は不思議な感覚だったなぁ。
ちゅっ、ちゅっ、と部屋の中にキスの音が響く。
久しぶりなせいかやたらと長い。
俺もだんだん龍哉のキスの感覚を思い出してきて首に腕を巻き付けた。
すると舌が遠慮がちに俺の口内に滑り込んできた。まさかのべろちゅーとか。
「ん……っ、待、おま……」
龍哉とは他のヤツと違ってべろちゅーもこっそりやってたけど、気持ちよくて下半身が反応しちゃうからどちらともなくやめたんだよな。
俺の舌を優しく絡めてくる龍哉。そうされてるうちになんだかボーっとしてきた。
このまま流れでやっちゃいそーで怖い。
「たつや……」
「ん?」
「便所行きたい」
ちょっと反応してるからやめてほしいんだけど、と言外に滲ませると龍哉が笑った。
「抜いてやろーか?」
「ムリ。お前椎名が帰ってきたらどう説明すんの?変な空気に耐えらんねーよ」
「あー……」
というか、あんまり触って欲しくないっていうか。
言いたかないけど俺も好きな人がいるからね。
龍哉は起き上がって俺の腕を引いた。
髪がぐしゃぐしゃになったから適当に手串で整えているところに、いいタイミングで椎名が帰ってきた。
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