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学内のコンビニ兼スーパー『つるたや』で惣菜を選んでいると、俺と同じことを考えたらしい龍哉とバッティングした。
「よーす」
「おーさっきぶり」
黒酢の酢豚いいなぁ、今日はこれと鮭おにぎりにするかな。
龍哉の手元をちらりと見ると、カルボナーラタリアッテレを選んでいた。
「龍哉なにそれウマそー」
「だよな。分けてやろーか?」
「マジ?食ってみたい」
「じゃあ俺の部屋で一緒に食おうぜ」
「行く行く」
適当に飲み物を選んで会計を済ませると龍哉の部屋に向かった。
高等部では部屋は分かれたけど、龍哉のところに入り浸る癖は余り変わってなかった。
「椎名はいんの?」
「学食行った」
「あ、そ。今週のギャンプ貸してもらおうと思ったのに」
「リビングに置いてあったから読んでけば?」
「読む」
椎名柾臣は龍哉の今の同室者だ。
外見も性格もやたらとイケメンでビビる。
俺のキスフレの一人だけどなんか椎名の時だけは緊張するんだよな。
龍哉の部屋に入ると、ちょっとホッとした。
嗅ぎ慣れた匂いっていうか、龍哉がいるなーって感じに安心するっていうか。
つーか部屋きたねぇ。掃除くらいしとけよ。
「お前らいつもこんなんで気持ち悪くねーわけ?」
「別に?自分の持ち物リビングに持ち込んでたら自然とこうなってたからさぁ」
掃除機はかけてあるのか埃とかチリが見当たらないのはまだ救いようあるけど、雑誌とかリモコンとか服とか散らかしっぱなしなのがなぁ。
それらを適当に押し退けてテーブルの上に買ってきた惣菜を乗せる。
「グラスと氷使う?」
「いらね。ペットボトルのまんまでいいや」
モノクロのアラベスク柄の座布団に腰掛けて買ってきたものをテーブルに広げた。
「レンジ使わせて」
「先にやっていいよ」
「さんきゅー」
弁当を温めて用意すると示し合わせたわけでもないのに同時に食べ始める。
三年同室だったおかげで、龍哉とは言葉にしなくても自然と生活スタイルの歩調が合う。
こういうとこは楽なんだよなぁ。
「ほら、あーん」
「あー」
龍哉にパスタを巻き付けたフォークを差し出されて俺はそれを躊躇いなくぱくりと咥えた。
卵が絡んだカルボナーラは滑らかでうまかった。
「うおっウマッ!次から俺もこれ買おー」
「そんな気に入ったんなら全部やるよ」
「今日は酢豚の気分だからいらねーし。あ、こっちのも食ってみる?」
「ん、ちょーだい」
箸で肉をつまんで龍哉の口元に運ぶと、龍哉はやはり抵抗なく食べた。
この「あーん」は俺らの間ではもはや日常茶飯事だ。
初めて見るやつにはびっくりされるけど。
「若林ってさー」
「ん?」
食いながら龍哉がポツリと口を開いた。
「なんかアレだね、俺ら行って良かったの?」
「んーどうだろ。本人は友達いないとか言ってたから俺らに囲まれて緊張はしてたよな」
「いないとか言ったの?自分で?」
「うん」
素直と言うかなんというか。
そんな素直さいらないような気がすんだけど。
「でも別にお前と千歳のこと嫌がってはなかったと思うよ。なんかあんま構ってほしくないらしいけど。でもそう言うわりになんか言いたげにこっち見るんだよなぁ」
「猫かよ」
「それだ」
若林は猫っぽいんだ。
自分が気が向いたときには構って欲しいけど、それを遠くから見てるっていうか。
距離を保って頭を撫でてやれば素直に甘えてくる感じ。
「あーなるほど納得した」
「理仁も猫っぽいけど根本的になんか違うよな。豹って感じ?」
「豹!?ウッソ俺そんな肉食系?」
俺とかけ離れたイメージにげらげらと笑う。
龍哉も自分で言っておいて「やっぱねーわ今のナシ」と笑った。
あーやっぱりいいなこの感じ。
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