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四人で若林の元の部屋、231号室に行くと中はもぬけの殻だった。

ついに三春を拝めると思った俺は拍子抜けした。

荷造りとかは全然してなかったけど、若林の部屋はきちんと整頓されていて荷造りが楽だった。

引越し用ダンボールみたいなのはなかったから急遽学内にあるコンビニ兼スーパーで調達してきた。

その帰りに途中で寮長に会ったからちょっとした文句を言ったら笑われた。

部屋移動は寮長公認で、学校側にももう許可済みらしい。
本来部屋移動なんて簡単に受理しないけど、若林は特待生だから多少の融通が利くみたいだ。

「勉強できる環境じゃない」っていうのが第一で、そのほかにも個室にしろっていう無茶な願いじゃないせいもあった。

趣味の本の類は傷つけちゃいけないようで、その辺の波長が合うらしい千歳と若林が黙々とダンボールに詰めてた。

俺と龍哉は教科書とか服とかの荷造り担当になった。
服は量が少なかったからそんなに時間かからなかったけど。

「若林ってこの部屋でずっと一人だったの?」
「一年の時はね。もともと二人部屋だったんだけど同室のヤツが急に海外に引っ越しちゃって、それ以来」
「え、誰だろ。引越しで転校とかそんなヤツいたっけ?」
「俺と同じ外部生で、いなくなったのも去年の今の時期くらいだったからあんま仲いい友達とかいなかったんじゃないかな。同室つっても俺もよく知らなかったし。G組の東堂ってヤツ」
「Gか〜。そっちに知り合いはほとんどいねーなー。お前らわかる?」

龍哉と千歳に聞けば、二人とも首を振った。

「東堂、せっかくここ受験して入学したのに残念だって言ってた。すごい大人しいヤツで全然喋んなかったけど、その時はなんか寂しそうにしてたよ」
「そりゃそーだよな。これからって時だもん」

まあ仲良くなって別れるよりマシなのかな?顔も知らない東堂ってヤツにちょっと同情した。



「……さて、と。とりあえずこんなもん?」

一人で運ぶにはきつそうな重いものを中心にざっとまとめたものを見渡す。

「二往復くらいでいけそうじゃね?」
「かもね。やっぱ本がネックだよなー」
「あの……ありがとみんな」
「いいって、遠慮すんなよ。じゃ、行きますか!」

四人で地道に引越ししてると、途中で知り合いに何人か声をかけられたから事情を話したら同情の目を向けられた。

どうも三春の噂はみんな知ってるようだった。
三春のことは特別嫌いってわけじゃないけどあんまり関わりたくないって感じだった。

件の三春は引越し中、一度も部屋に帰ってこなかった。
もう俺と三春はかち合わない運命なのかもしれない。




荷物の移動は家具の類がないからそんなに手間はかからなかった。
ていうかわりと質素?って感じで本だけが膨大な量を占めていた。

「よっ……と、こんなもんか?若林ーこれここ置いていい?」
「うん、そこで。ていうか、三人ともマジでありがとう。助かった」
「いーのいーの。俺、お前に迷惑かけちゃったしおあいこってことでさ」

千歳がそう言うと、若林もすっかりと馴染んだように表情を緩めた。
しかし若林は俺の方を向いて申し訳なさそうに表情をきゅっと引き締めた。

「お礼……とか、俺あんま金ないから奢ったりとかできないけど……」
「そういうのいらねーって。……あ、そうだ。だったら引越しソバ作ってよ。なー龍哉、千歳。若林って超料理上手なんだぜ。和食の鉄人」
「おーすげー。俺自炊壊滅的だから羨ましいわ」
「俺もー」

荷解きは本人に任せるとして、指示された通りに荷物を積み上げながら話すと、若林は照れたように少し赤くなった。

「べ、別にフツーだよ。てかそんなんでいいわけ?」
「働いて腹減ったし、昼だいぶ過ぎちまったけどちょうどいいっしょ。材料費とか俺ら出すし、買い出し行こうぜ」
「いいよそれくらい」
「えー千歳とか馬鹿みてーに食うよ?いいから遠慮すんなよ」

ポンポンと若林の肩をたたくと、ちょっとうつむいて頬を染めた。
なんだか素直なとこあるじゃん、こいつ。





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