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ふにゃふにゃした声に苛立ちながら終話ボタンを押すと、若林が戸惑っていた。

「つか、あの、各務はむしろかばってくれてたっていうか……だからそんな怒んないでほしいんだけど……」
「そーなの?いやでも三春を止められてねー時点で同罪だっつの!」
「……なんか意外」
「は?」
「志賀君はさー、リア充っていうかあんまそういうのでキレたりしないんだと思ってた。だって俺とは昨日初めて喋ったばっかじゃん?そんな真剣に話聞いてもらえるなんて思わなかったし。もっとクールっぽいっ感じつーかそういうの想像してたんだけど、なんか熱い性格してるね」
「え、俺全然リア充じゃねーよ?恋人もいないし。むしろ寂しい系男子だけど」

むしろ不毛な片思いをしてる不憫な男子ですが。

「いやー、だって志賀君イケメンじゃん。で、色んな人と仲いいっつか人気だから俺とは世界が違うなーって」
「うそ俺イケメン?あ、そう言われて喜ぶあたりがイケメンじゃねーんだよな」

若林君がムホッとか咽たように噴き出した。
そんなに面白いこと言ったか俺?ていうか初めて笑ったなこいつ。

「まぁ、監査とかやってると色んなとこに人脈があるのは確かだけど」
「てゆかほら、噂とか色々聞いてるし。あの……キス、友達とか」
「え?あーあぁ、そーかそっちね。てか若林ってリアルのそういうの嫌いなんだよな。なんかごめんな」
「別に気にしないよ。てかそういうの知ってて志賀君と同室選んだんだし」
「選んだの?」
「そうそう。一人部屋状態の人は他にも何人かいたんだけど、志賀君がいいかなーって」
「ふーん?別に俺は構わねーけどなんか照れるな」

へへ、と照れ笑いをすると、若林も唇の端をぐにぐにと動かしていた。
笑うのを必死で抑えてるらしい。

「……あ、そういやお前、下の名前はなんていうの?やべぇ若林のこと全然知らないわ俺」
「一葉。数字のイチに、葉っぱの葉で一葉」
「おーいいね、爽やかな名前じゃん。お前に合ってるよ」
「志賀理仁の方がかっこいいって」
「うわやめて、褒め合いとかキモイからマジやめて。つかなんで俺の名前知ってんの?」
「部屋の名札に書いてあるし。それ以前に志賀君有名人だし。漢字は名札で初めて知ったけどね」

くすぐったい思いをしてたら、ようやく千歳が部屋に来た。
しかも龍哉も一緒だった。龍哉は思いっきり不機嫌な顔をしていた。

「俺これから出かけようと思ってたのに千歳に無理矢理連れてこられたんだけど……」
「だぁってなんか理仁怒ってるし、一緒に怒られようと思って」
「俺関係なくない?」

不満げな表情で龍哉が呻く。俺は二人を部屋に招き入れた。

「いいから入れよ二人とも。あ、用事あるなら龍哉は帰っていいぜ。デートかなんか?」
「いや……うん、いいよ別に。デートとかじゃないし」

歯切れの悪い龍哉と寝起きのスウェット姿なのにイケメンの千歳を部屋に招き入れると、若林が緊張したようにさっきまでのリラックスムードを引っ込めた。




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