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「そういうの好きなの?」
「まあね」
「よかったじゃん」
「何が?」
「周りにいっぱいいんじゃん。ホモ」
「二次元と三次元は違うんで。ていうか現実のゲイとか生々しいのムリ。あと俺、好み超偏ってるから。リーマン純愛系でオッサン受けじゃないとダメ。年下社長攻めが至高な」
「ごめん何言ってんのか全然わかんねーや」
千歳もそうだけどオタクはよく分からんこだわりがあるんだよな。俺には理解できない。
「まあいいや。若林なんか飲む?甘いもん好き?」
テーブルの上にここ数日でもらった菓子のストックを積み上げてミニキッチンに行くと、若林が初めて顔を上げた。
オシャレ眼鏡の向こうの目が結構大きい。
「特にこだわりなかったら紅茶淹れるけど?」
「……噂どーりだね志賀君」
「は?」
何でもない、と抑揚のない声で言って若林はまた漫画に目を落とした。
つかみどころのないヤツだ。
静かにしたい派らしい若林のことは放っておいて、ティーバッグの紅茶をマグカップに淹れた。
一つは若林の前にあるテーブルの上に、自分のは自スペースに持ち込んで引っ込んだ。
課題とかやる気ねーな。つか若林まさかこのまま引っ越して来ねーよな。
紅茶をすすりながら雑誌を広げてたら、コンコンとドアが控えめにノックされた。
ドア越しに「言い忘れてたけど」と若林の声がする。
「なに?」
「俺今日からここの同室だから。そのうち荷物持ち込むからよろしく」
「あ……うん」
「それと」
「ん?」
「……お茶、ありがと」
「いやいや」
マジで引っ越してきちゃったよ若林君。
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