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その後は滝の部屋に遊びに行って、同室のヤツも入れて三人でカートゲームをやりまくった。
レースで白熱して馬鹿笑いしたおかげか最近の鬱屈した気分がすっきりとした。
ストレス解消になったし遊びまくって結構いい時間になったから滝の部屋をあとにした。
しかし自室に帰りついて、俺は眉を顰めた。部屋の電気がついていたからだ。
もしかして消し忘れ?と思ってリビングスペースに足を踏み入れた俺は「おわぁ!?」という間抜けな叫び声を上げた。
だって知らないヤツがソファーに座ってたんだもん!
え、鍵かかってたよな!?
俺はおそるおそる謎の人物に話しかけた。
「えーと……誰?」
「231号室の若林」
「ここ212だけど」
「知ってる」
若林と名乗ったのは、黒髪で無難なヘアスタイルの、一見して地味な感じのヤツだった。
細すぎず太すぎずの体型で、カーキ色のパーカーを着ている。黒縁のオシャレ眼鏡着用だ。
ソファーにゆったり座って漫画から目を離さない若林の存在が本気で意味がわからなかった。
すると若林が平坦な声で俺に話しかけてきた。
「あのさー最近転入生きたじゃん?」
「来たねー」
「あれ、俺の同室なんだ」
「……まじで?」
「マジ」
一気に同情してしまう。
あの台風みたいなヤツと同室とか、まともに生活できるんだろうか。
「そんでさー、悪気はないんだろうけどあいつ距離近すぎっつか個人部屋の方にノックなしに入ってきたり、朝からずっとうるさいから耐えらんなくて家出してきちゃった」
「それがどうしてこの部屋なんだよ」
「だって志賀君とこ一人だったじゃん?」
「いやまあそうだけど、鍵とか」
「寮長に泣きついたらこの部屋紹介してくれた」
緩いなホントに!
「友達んとこ避難しとけばよかっただろ」
「俺友達いないし」
「そんな寂しい自己申告いらねーよ……」
こっちが悲しくなるだろーが。
しかし若林は俺の微妙な気持ちを気にすることなく漫画のページを捲りながら単調な声で続けた。
「んで、志賀君だったらいいかなーって。うるさくなさそうだし」
「まあ俺もあんま人構うタイプじゃないからいいけどさ。でもいきなり知らないヤツがいたらビビるだろフツーに」
せめて何か伝言くれよ寮長さんよ。
しかし若林はやたら無表情だな。あと漫画読みすぎ。人と話すときくらいこっち向けよ。
「お前何読んでんの?少女漫画?」
「BL」
「びーえる?」
「ホモ漫画」
「……ああ、そう」
こいつに友達いないわけがなんとなく分かったわ。
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