21

ようやくの土曜日、昼までたっぷり寝坊して起きるとちょっと元気になった。でも精神的な疲労が抜けない。

何もする気が起きずベッドやソファーでゴロゴロするだけで時間が過ぎていく。

そうして昼飯には遅すぎるが夕飯には早い時間、今日は水と食パン以外腹に入れてないなと気付いて食堂に来た。

自分で食事を作る気になれずに来たんだが、正直あまり味がしない。月見うどんをノロノロ食べていると滝がやって来た。

「志賀じゃん。お前がこの時間学食とか珍しいね」
「おー、滝か……」
「疲れてるみたいだな」
「まーな」
「俺んとこもおんなじ感じだからわかるよ」
「そっちは人数いるんだからいいだろ。俺たち三人で回してんだぜ」

ちょっと愚痴っぽくなると、滝がからからと笑った。

「なんか甘いモンでも食うか?奢ってやるよ」
「いらねー。あんま食欲ねーんだよ」
「ヤダー志賀ちゃん痩せちゃうゾ」
「キモい」
「ぶはっ!ツッコミにキレがねーなー」

何がおかしいのか滝が爆笑する。その笑い声になんだかイラッとした。

「もーなんだよお前。絡みづれーよ」
「そんな怒んなし。ほれ、いいもんあげるから」

何、と言いかけたところで口の中に何かを捩じ込まれた。舌で転がしてみるとそれは甘いミルク味の飴だった。あ、うまい。

滝が頬杖をつきながら人のいい笑みを浮かべた。
全体的に誠実っぽい雰囲気の滝がそういう風に笑うとやたらと好青年に見える。

「なんかあったら俺たちに言えよ。風紀はけっこーお前らの味方だから」
「え、お前んのとこのリーダーさんにはいつも嫌味ばっか言われてっけど」
「あの人は誰に対してもああだから。でも仕事きっちりしてくれるから委員長のお気に入りだよ、監査」
「ふーん」

ついそっけなく言っちゃったけど、褒められるとやっぱり嬉しいものがある。
北條先輩はツンケンしてるけどちゃんと監査委員のこと認めてくれてるんだな。

やべ、なんか照れて口元がニヤニヤしてくる。

「……飴さんきゅー。疲れ取れるわ」
「どーいたしまして」

言いながら滝が軽くキスをしてきた。するならするって言えよな。びっくりするだろーが。

「志賀と初ちゅーじゃん」
「そーすね」
「なんでそんなテンション低いんだよ!俺ちょっと緊張してんのに、ってか志賀に緊張とか超ウケる」
「や、フツーに驚いただけ。俺不意打ち系弱いんだわ。お化け屋敷とか」
「へ〜意外。今度ホラー映画上映会でもする?」
「スプラッタなら平気。俺的にはむしろホラーゲームのが難易度高いんだけど。アレ曲がり角とかから突然ぐわっと来んじゃん?」

昔やったゲーム画面を思い出してゾクッとする。
ゾンビに追いかけられたら確実に悲鳴上げる自信がある。

滝がふふふと嫌な笑いをした。

「俺そーゆーゲームいっぱい持ってるよ。今度一緒にやろーぜ」
「だから苦手だって言ってんじゃねーか」
「だからやるんだよ。ビクビクする志賀ちゃん見てみたーい」
「てかこの前から思ってたんだけどお前ってゲーム好き?ソフト色々持ってる?」
「あるよー。気になるタイトルあったら言って。有名どころは揃ってると思うし」
「そうなんだ、もっと早く知ってりゃよかったー。滝んとこに入り浸れるじゃん。つーかあの北條先輩がゲームやってたのは正直めちゃビビった。そういうの興味ないって顔してたからさー」
「あの人も結構なゲーマーだよ。理詰めでプレイするタイプ。攻略方法とかチョー研究すんの。経験値効率とか自分で計算したりしててさー、ちょっと引くくらい詳しいし」

そのあたりはイメージ通りというかなんというか。複雑だ。

そんなどうでもいいことを滝と夢中で喋ってたら、なんとなく気分も上向きになった。



だから気付かなかったんだ。食堂の二階席から仁科が俺たちのことをずっと見てたなんて――。





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